【第75回】 五体がつながる

人間の体は、いわゆる五体といって、バラバラに分かれて別々に機能できるようにできている。もし人間の体が1本の棒のようであれば、一端に加えた力は100%他端まで伝達されるわけだが、五体バラバラになっているために力は分散してしまう。合気道や武道では下半身からの力(エネルギー)を手先に集中することが大事であるが、下半身と胴体、胴体と腕が骨で直接つながっていないため、その力がその部分で切れてしまうことになる。

下半身と胴体がつながっている部分とは、「股関節」である。この股関節によって、前後左右、内外回り、上下、自由に動けるのである。従って股関節が硬ければ自由に軽快に動けないし、体の中心軸が前足の重心軸に乗らないので、下半身のエネルギーは胴体(特に仙骨部)に伝わりにくくなる。

下半身から股関節を経てきたエネルギーが胴体に入ってくる時には、胴体と腕の骨は続いてないため、なんとか繋がなければならないことになる。つまり腕の最先端(指先の反対側)と胴体部をつなげることであるが、通常は腕の最先端とは肩関節のところであると漠然と考えられており、腕をそのつもりで使ってしまう。だが、正確には腕の最先端とは「胸鎖関節」(図参照)で、胸骨に接する鎖骨の先端関節部なのである。この胸鎖関節こそが胴体と腕(上肢)の連絡をする唯一の関節ということになる。

脚、腕、体幹以外のもう一つの体の部は頭である。この頭と体幹をつなぐ骨は頚椎(7個の椎骨)である。

人間のバラバラな五体をつなぐ関節と骨は、股関節(大腿骨と骨盤)、胸鎖関節(上肢と体幹)そして頚椎(頭部と体幹)ということになる。従って下半身からの力を効率よく手に集め使うためにはこの部分をつなげて、力を通りやすくしなければならない。力が通りやすくなるためには、その部位を柔軟にしなければならない。関節や骨そのものは自ら動けないし、伸び縮みもできず柔軟にならないので、それを動かす筋肉を柔軟にすることしかない。

骨と骨をつなぐ各部を柔軟にするには、その部位を意識した稽古をするのが大切であるが、その部位のための稽古で体をつくるのもよい。
股関節を柔軟にするには、昔から相撲の四股、叉割がいいとされている。
胸鎖関節を柔軟にするには、「第66回 肩を貫く」を参照されたし。
頚椎はなかなか鍛えられないだろうから、首を保護している僧帽筋、胸鎖乳突筋を鍛えるのがいいだろう。その鍛え方は前回の「第74回 首」を参照願いたい。

力を効率よく使うために、五体がばらばらにならないように、五体が1本のムチのように使えるようにならなければならない。