【第742回】 腹を練る 〜 腹のスライド

合気道でいい技を生むためには腹を練らなければならない。大先生は腹を練れと教えられている。
腹を練り、腹をつくっていくためにこれまで次のような稽古をしてきた。
まず、手と腹を結び、腹で手をつかって技をかけることである。それまでは手と腹の結びもなく、手をつかっていたので、手は強くなり腕力はつくが腹は鍛えられなかった。
次に、腹を陰陽十字につかうことによって腹を練ることである。左右の足が右左陰陽で動き、体重がそれに従って右左に移動するが、その際に腹も右左陰陽に動く。この腹の陰陽の動きでも腹は練られる、が十分ではない。
ここで腹を十分に練るためには、腹の陰陽に加えて十字につかうことである。腹を陰陽で他方の足に移したら、そこで腹を十字にかえすのである。十字にかえすとは、腹の面を腹の下にある足の爪先に対して十字になるようにすることである。これが腹を陰陽十字にかえすということである。
三番目は、息づかいで腹を練るのである。天地の息の吐く息引く息で腹を練り、腹をつくっていくのである。取り分け、地の息の赤玉(潮満玉)と白玉(潮干玉)でがっちりした腹ができるようである。

ここまではこれまで研究し、発表したことであるが、今回は四番目の腹を練る方法を発表する。
それは腹をスライドさせることによって腹を練るのである。スライドさせるとは、腹の中心を左・右に滑らせ移動し、体の一軸の中に入れることである。これは非常に繊細で難しい動きである。腹腰が硬ければ出来ないだろう。
正面打ち一教は、この腹のスライドで体と手をつかわないと上手くいかないようである。相手と接する手先(手刀)は、法則上動かせないので、手と結んでいる腹をつかうことになる。腹を前後、左右に動かすことになる。
前後の腹の動きは、足(足首、膝、腰)と腹である。腹を、腰を支点として用としてつかえばいい。
左右の腹の動きは、腹をすべらせて体を一軸になるようにつかうのである。腹をスライドさせることによって、受けの相手は手にかかる力が、右左と陰陽に変わることに気がつかないし、無意識でこちらの動きに同調するようになるのである。
前から言っているように、本部で教えておられた有川定輝先生の晩年の一教は、強力であるだけでなく、同時に理に合った、芸術的で美しい技と体づかいであった。長年、その先生の技に近づこうとやってはいたが中々上手くいかなかったが、この腹のスライドが大きなポイントの一つであることが分かったわけである。コロナのお蔭で道場での稽古が当分出来ないが、道場が開いたら試してみることにする。

この腹のスライドで腹が更に練られると思っている。しかし、腹を練るのにも終わりがないはずなので、次の方法にどんなものが出てくるのも楽しみである。