【第741回】 単独動作の重要性
コロナ感染を避けるために、合気道の道場での稽古が2か月ほど停止した後再開されたが、これまでの相対での稽古ではなく、単独動作になる稽古に変わった。コロナ感染を防ぐために、他の稽古人達と触れ合わないように一定間隔をとり、マスクをしての稽古になった。相手と触れることもなく、掴んだり、倒したり、極めたりするのではなく、単独動作による稽古である。
単独動作の稽古にはどのようなものがあるかを見ると、『合気道技法』には、
- 体の進退:継足、歩足、転回側、膝行
- 体の変化:左・右第一法、左・右第二法、左・右第三法、左・右第四法
- 呼吸の変化:左・右呼吸の変化(正面打ち一教運動)、
- 呼吸転換法:左・右呼吸転換法
- 手首関節柔軟法:小手回し法(二教運動)、小手返し法(小手返し運動)
この単独動作の前に基本準備動作の単独動作の稽古がある。
- 構え
- 間合い
- 手刀
- 気の流れ
- 捌き
- 力の出し方
- 受け身:前受身、後ろ受身
- 坐法
これらの動作を土台にして形を覚え、技を練っていくことになるので、これらの動作をしっかりみにつけなければならないことになる。
更に、単独動作の稽古には、
- 相対稽古での技(1〜4教、四方投げ、入身投げetc)を同じように単独でする
- 剣を剣なしで振る
- 杖を杖なしで振る
- 体の各関節の柔軟及び強化運動
- 息づかい(イクムスビ、阿吽の呼吸)
- 天地と結ぶ稽古
等があるだろう。
単独動作の稽古は、入門したばかりの初心者だけでなく、相当力のある高段者でもやらなければならないと思う。普段は相対稽古なので、なかなか単独動作の稽古をやらないし、やろうとは思わないはずである。何故ならば、合気道は武道であるあるから、敵(相手)に負けないよう、相手を殲滅するものだという心が無意識の内に働いているからだと思う。また、踊りでもあるましし、一人で動いても面白くないとも思っているはずである。
その意味で、今回のコロナ騒動による単独動作の稽古は、非常にいい機会を与えてくれたと感謝すべきだと思っている。この機会がなければ、相対動作の稽古だけを続け、単独動作の稽古を経験しないままになってしまうと危惧するからである。
それでは単独動作の意義とは何かということになる。
一つ目は、初心に帰ることである。入門当時の初々しい気持ちにもどることである。もっと頑張らなければならないと思うことである。相対稽古でマンネリになっている気持ちに新風が吹き込まれるはずである。
次に、単独動作をやってみると、己の体が思うように働いてくれないし、手が折れ曲がったり、手先に力が出ないことなどに気がつくはずである。
そうすると、腰腹と手先を結び、腰腹で手をつかわなければならない事や体は陰陽十字につかわなければならない事、そして技も体も宇宙の法則に則ってつかわなければならない事、更に宇宙の法則があることなどに気がつくはずである。つまり、相対稽古だけでは気がつきにくい事に気がつくということである。
単独動作の稽古で己の心体が上手につかえるようになると、相対動作の稽古でそれが生きてくる。単独動作の稽古によって、技と体づかいが変わり、稽古の次元が変わることになるはずである。
相対動作の稽古では、稽古の対照相手は“人”であり、人の世界の稽古である。物質科学、競争社会での稽古である。
単独動作の稽古は、己自身および天地・宇宙との稽古であり、非物質科学、争わない非競争の世界である。
この単独動作の稽古で得たモノを相対の稽古でやるのである。
結論を云えば、今回のコロナ騒動は、単独動作の稽古の重要性を再認識させてくれた。コロナに不平を云うだけでなく、感謝してもいいだろう。
これも合気道の教えである。物事には必ず両面ある。いい面、悪い面、いい面にも悪い面、悪い面にもいい面・・・と。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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