【第739回】 三つの鍛練で真理の力

合気道は技を錬磨して精進していくが、技がどれだけレベルアップしたかは、その技からどのような力がどれだけ出るかということではないかとも考える。
“どのような力”というのは力の質であり、“どれだけの力“とは強弱、大小など量的な力である。
技から出る力で相手を倒したり抑えたりするわけだが、その力を自分自身は勿論、相手もこれはいいとか悪いとか感じる。そして自分も相手もいいと感じるような力をつかいたいと思うものである。例えば、十分に威力があるが、無理なく倒されたり極められるが違和感がなく、反抗心が無くなるような快適な力である。
そのような力を大先生は「真理の力」とも言われているようである。そして、その「真理の力」は、次の三つの鍛練を実行することによって得られると言われている。

  1. 己の心を宇宙万有の活動と調和させる鍛錬
    宇宙万有の活動とは、大宇宙から万有万物の活動ということである。大宇宙や天地の生成化育、日月星辰の活動、雨風、台風、海川山、動植物、鳥虫等などのすべての活動である。
    これらの活動に、己の心を調和させる稽古をすることである。
    心は脳をつかうので、まずはそれらの宇宙万有の一つ二つの活動を心に描き、そしてそれと調和一体化することを意識して稽古することである。初めはイメージで、そして相対稽古での技を、宇宙万有の活動と調和するよう心で掛けていくのである。
    心は自由で無辺であるから広大な宇宙の活動でも、日月の息でも、鳥虫の活動とも調和することはできるはずである。
  2. 己の肉体そのものを宇宙万有の活動と調和させる鍛錬
    次は自分の肉体を上述の宇宙万有の活動と同じように動けるように鍛えるのである。最も基本的な宇宙万有の活動は陰陽十字であるから、自分の肉体は陰陽十字に動けるように鍛えなければならない。更に、宇宙万有の活動には、一霊四魂三元八力の三元の活動があるので、肉体を剛柔流に鍛えなければならない。さもないと宇宙万有の活動と調和できないということである。
    勿論、上述の万有万物、例えば、海、小川、動植物などの動きや活動を学んでいくことも大事である。
  3. 心と肉体とを一つに結ぶ気を、宇宙万有の活動と調和させる鍛錬
    心で思ったことやイメージしたことを肉体は中々正確にはやってくれないものである。それは稽古で技をつかってみればわかるはずである。心と肉体がしっかりつながっていないのである。心と肉体をがっちり繋がるようにするのが“気“であるが、この”気”が初めは難しくて上手くつかえないはずである。それ故、“気”を横に於いて置いて、“息“で心と肉体を繋げばいい。息で体と技をつかうということである。イクムスビ、そして阿吽の呼吸で心と肉体を一つに結び、宇宙万有の活動と調和させるわけである。
    この息でやっていると、息と関係なく、心と肉体は結んだまま、宇宙万有の活動と調和したような動きと技になってくるのである。息が“気“に変わっているのである。ということは、心と肉体とを気で一つに結んだことになり、気が宇宙万有の活動と調和させたことになるだろう。
そしてこの三つの稽古を続けていると、これまでとは違う力が出てくることは確かである。相手をくっつけてしまい導く、軽いが重い、自由自在の嫌味の無い力である。これが魄の力とは違う「真理の力」であろうと思う。

参考文献 『合気神髄「心と肉体と気の三つを宇宙万有活動と調和」』