【第737回】 使命は万有万物にある
合気道を半世紀以上稽古してきて、「合気道は人に勝つためではなく、争いに勝ためでもなく、戦わずして勝つためでもない。自己の使命に与えられたる宇宙の使命に打ち勝つことである。」ということが分かってきた。
また、合気道は「よく自分を知るということが自分に課せられた天の使命であります」、そして「その人その人の天授の使命を完うさせていくのが、合気道である」と教えている。つまり、合気道は自分自身の使命を知る事であり追求することであると同時に、他人がその使命を全うできるように、支援したり、邪魔になる汚れけがれを淨め祓いてあげるということなのである。
合気道では、全大宇宙の無限の発展完成がなされるため、宇宙楽園が建設されるために、「魄をもったことは天からの使命を持たされたことなのです。
魄を育てあげるだけの能力を持たされているのです。」とあるように、形があるものすべてに天から使命を持たされているのである。
使命にはいろいろあるわけである。大先生の『合気神髄』の中には、ちょっと拾い上げただけでも、「各自の使命、天授の使命、合気の使命、自己の使命、宇宙の使命、気の使命、自分自身の使命」のような”使命”が見られる。
使命には個々の使命と万有万物共通の使命があるようだ。
<個々の使命>
- 人間個人の使命:個人に課せられた使命。例えば、以前紹介したように、画家の東山魁夷画伯や民藝運動家の柳宗悦らが自ら、この仕事は天から与えられた使命であると言っている。勿論、合気道をつくられた植芝盛平先生も、合気道をつくり、普及させるのは天から与えられた使命、天命であると言われておられる。
- 万有万物の使命:草木禽獣魚虫類が各々使命を持っている。良く見てみると、確かに草でも木でも動物でも虫でも、何かに向かって懸命に頑張って生きているように見える。例えば、フンコロガシは、糞を転がして地上を綺麗にしているように、虫たちや小動物たちは地上の汚物を綺麗に片づけている。
- 形成されたモノの使命:自然に形成したモノも人工的につくられたモノにも使命はある。
自然に形成されたモノを上記の例で挙げれば、天授の使命、合気の使命、宇宙の使命、気の使命である。全大宇宙の無限の発展完成のために、各々使命があるということであり、役割があるということである。
人工的につくられたモノとしては、社会、国家、業界、職業、お店、会社、お茶・お能等の芸能界、武道界、合気道などがある。合気道に使命があるように、これらのそれぞれにも個々の使命があることになる。
<万有万物共通の使命>
- 人間の共通の使命は「自分を知る事」である。草木禽獣魚虫類にそれを確認したわけではないが、見ていると彼らはみんな「自分を知っている」ように思える。また、人工的につくられたモノである社会、国家、業界、職業、お店、会社、お茶・お能等の芸能界、武道界、合気道なども「自分を知る事」が大事であるだろう。自分を知らなければ、誤った方向に向かったり、悪い道に進んだり、全大宇宙の無限の発展完成を妨げたり、破壊することになる。
ということは、「自分を知る事」は万有万物共通の使命と云っていいだろう。
- 子孫を残し、より繁栄させることである。人間は無論の事、生きているモノすべては、子孫を残そうと生きている。小鳥の囀り合うのも、草花が美しく咲くのも、鮭が命懸けで産まれた地に戻ってくるのも、この子孫を残す万有万物共通の使命である。
因みに、万有万物には、今、はやっている新型コロナウィルスも入る。彼らも子孫を残すべく懸命なのである。人間の体に取りつき、人に気づかれ難く増殖していくが、余り増殖して人間が消滅しないように適当に感染し増殖しているという。また、ある薬で一斉に絶滅しないように、新型コロナウィルスはすべてが同じではなく、何かが多少違うというのである。ある薬で大半が消滅しても、幾つかが生き残るわけである。子孫を残そうとする使命からである。
この事から考えれば、人もそれぞれ違っていいし、違わなければならないと思う。特に、現代人は快適な生活をしているので、何か壊滅的な大災害が起こったり、また、氷河期が到来すれば人類は絶滅することになると思う。そこで思うのは、例えば、真冬でも外で寝ているホームレスの人たちである。我々ひ弱な者は、駄目でも、もしかすると彼らが生き残ってくれるのではないかと思っている。少なくとも最後まで生き残るのは恐らく彼らだと思う。
人類の子孫を残す使命のために、もっとホームレスの方に敬意を持ってもいいだろう。
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