【第733回】 新型コロナウィルスと合気道の教え

新型コロナウィルスが世界中で暴れ回っている。感染者は日本国内で4、768人、死亡者は85人、国外での感染者は1,430、718人、死亡者は85,426人(2020.4.10現在)となっている。東京もニューヨークも感染者はますます増えているし、これからアフリカや東南アジアや中近東諸国など医療施設や技術が乏しい地域にまん延するはずなので、この数字は更に大きくなるはずである。

新型コロナウィルスに感染すれば命を落とす危険性が高いわけだから、新型コロナウィルスは恐ろしい。人は新型コロナウィルスで死にたくないから、恐れ、感染しないようにしていて、学校を休みにしたり、テレワークにして、不要不急の外出を控えている。
新型コロナウィルスのまん延は起きてしまったことは事実であるし、新型コロナウィルスを消滅しなければならないから、みんなでその努力をしなければならない事は間違いない。

しかし、この新型コロナウィルス問題を悪い、大変だとするだけではなく、ここから何かを学ばなければならないと思う。例えば、次回同じことが起こった場合の参考や教えとなるようにすればいいと考える。もし、新型コロナウィルスが、またいつの日にか大暴れしても、今回のようにばたばた慌てふためき、適当な対処ができないとしたら、関係者も一般人も全然進歩しなかったことになり、恥ずかしいかぎりである。人が失敗するのは仕方がないが、二度の同じ失敗は駄目である。二度の同じ失敗を犯すのは、一度目の失敗から何も学ばなかったことになる。

今回の新型コロナウィルスからは、いろいろ学ぶ事がある。合気道の教えに照らし合わせてみるとそれがよく分かる。
まず。何故、新型コロナウィルスが世界中にまん延したかということである。
合気道ではこの新型コロナウィルスを“カス”という。“カス”とは、心体の機能を邪魔するモノということである。人間の体であれば、脂肪、癌細胞、コレステロール等であろう。また、社会や国であれば、犯罪など社会の秩序を見だすものである。
カスは肉体的や経済的に発展してきた結果の置き土産であるから、カスが出るのは仕方がないと、合気道では教えている。

物質文明が発展すれば必ずカスがたまるのである。合気道でも魄の稽古といわれる物質的稽古(肉体的な稽古)をすればカスが必ず溜まるという。モノが発展するためにカスが溜まるのは仕方がないが、そのカスを取り除かなければ、先に進めない。
合気道では、溜まったカスを除くために禊(みそぎ)をする。そして合気道の技の稽古は禊ぎであるので、合気道は禊ぎということになる。合気道を稽古する事が禊ぎになるわけである。

それでは合気道と別の社会(含む、国、世界、地球)に溜まったカスをどうすれば取り除くことができるかということになる。大きな問題であり、合気道家が容易に出来るとは思えないことであるが、合気道をつくられた植芝盛平先生は、これこそが合気道の使命であるといわれているから挑戦しなければならないと考える。

まず、新型コロナウィルスは、これまで人類が進歩、発展してきて残された”カス“であることを認識する事である。何かを生み出す、発展さすと必ず”カス“が残るということである。これを自分たちが生み出したカスであることを自覚する事である。
従って、今回の新型コロナウィルスが収まった後でも、社会が発展し続ける以上、この同僚が、いつか必ずやってくることになるわけである。それは歴史をみればいい。例えば、スペイン風邪(1918年)、香港風邪(1968年)、エボラ出血熱(1976年)、エイズ(1981年)、SARS (2002-2004年)、MERS (2012年)、新型コロナウイルス (2019年-)・・・である。
必ずやってくるという心の準備とともに、それを避けるべく努力をしなければならない。そのためにも、今回の新型コロナウイルスで経験した事を分析、反省して次回に供えなければならない。

今回の新型コロナウィルス問題で、多くの人は気がつくか、無意識的に、モノの哀れに気がついたと思う。幾らお金があっても、家や車や金銀財宝があっても、行きたいところに行けないし、やりたい事も出来ないことが分かったはずである。1億円以上の金持は新型コロナウィルスにかからないということはないし、また、金があっても夜のキャバレーやバーに行けるわけではない。また、自由に海外に渡航できるわけでもない。金が全てではないという事である。
勿論、衣食住のための経済的な基盤は必要だが、それ以上あっても使いようがないということである。特に、高齢者はそうだろう。高齢になって、使いきれないお金を持ち、更に儲けようと目の色変えているのは、とりわけこのような外出規制の状況では、哀れに見えるものである。お金があるから新型コロナウィルスに冒されない保障などないのである。それよりも、健康な体をつくり、運動や食事や睡眠などで免疫力を高めた方がいい。また、自分のやるべきことはないのか、できる事はないのか等をこの機会に一度考えてみるのもいいだろう。

もう一つ、今回の新型コロナウィルスで分かった事は“愛”という事である。
特に、医療関係者の献身的な働きには頭が下がる。中には新型コロナウィルスの感染によって命を落とされた方もおられた。彼らは、一人でも多くの感染者を救おうと全力を尽くしておられるのである。
合気道での“愛”は、一つは、相手の立場でモノを見、やることである。つまり、医療関係者は患者の立場になって、その苦しさを感じ、生きたいという願いを痛感されて治療をされたわけである。合気道の稽古でもこの”愛“がなければ、相手を壊したり、争いになってしまうし、相手を活かすウィンウィンの稽古ができないのである。
これを契機に、モノや力に偏っている物質文明から目に見えない心を重視し、他者を思いやる利他主義や精神文明に少しは変わっていってくれればいいと思っている。
人は、というより万有万物は、地上楽園建設完成のために生きて働いているということの再認識である。多くの人たちや企業が地上楽園建設完成への働きを助けたり、支援しており、これが本来の万有万物の本能であろうと思った。

最後に、新型コロナウィルスにも“愛”で接することは出来ないかということである。万有万物に地上楽園建設完成のための使命があるとすれば、新型コロナウィルスにもその使命があるということになるはずである。
一つ言えることは、新型コロナウィルス自身は、我々人類をいじめよう、殲滅しようなどとは思っていないはずだということである。新型コロナウィルスは、ただ本能、使命のままに、子孫を増やそうと人の体に入ってきただけなのである。何か新型コロナウィルスと仲良くなり、お互いがウィンウィンになれる方法はないものかと考えている。そうなれば完璧に禊ぎをしたことになると云えよう。
例えば、この新型コロナウィルスも別の天体で発見されれば、新型コロナウィルスに対する人類の見方や取扱は違ってくるはずである。例えば、火星でこれを見つけたら、歓喜するだろうし、人類の同朋として宝物のように大切に取り扱う、つまり仲良くなるということである。
物事は時と場合によって、良し悪しや害・益の見方が変わる。地上でも数10年後、数百年後、数千年後には、人類は新型コロナウィルスやこの親族とも仲良くなれたらいいと期待しているところである。