【第733回】 足の縦の十字と爪先

多くの秘儀がつまっている極意技と考える「正面打ち一教」を研究しているが、依然として難しい。その難しさのひとつが、「正面打ち一教」を構成しているところの“技”を十分につかっていないことにあると考える。その“技”をつかえないのは、その“技”をまだ見つけていない事、そしてその“技”が十分につかえないことによるだろう。

この度、気がついて見つけた“技”は、足の縦の十字である。“技”とは法則であるから、その法則に気がついたということになる。
これまで足の横の十字の法則については書いてきた。踵から足を地に下ろし、小指球、母指球に体重を移動する横の動きで、足を“あおって“体を十字につかうことである。

この足の横の十字、つまり、足が地に対して横に動くのと対照的に、足が地に対して垂直に動くのが足の縦の十字である。
足が縦に動くためには爪先の働きが必要になる。爪先とは、足の先端部の指がある部分、または足の指の先の部分のことである。尚、足とは足底である。

体を上に上げたり、下に下げることが出来るのは爪先である。爪先づかいによって、体が自然と上がったり下りたりするのである。もし、爪先をつかわないで手や体を上下すれば、手さばきになったり、不自然に伸びあがる姿勢になるはずである。
実は、爪先は、歩行の際に重要な役割を持っているのである。爪先をつかうことによって、つまずかずに前に進んでいるのである。高齢者がつまずいたり、思うように前に進んで歩けないのは爪先の退化や不使用によるはずである。

爪先を日常の歩行の際に上手につかっているのに、合気道の相対稽古で上手くつかえないのである。だから、正面打ち一教が出来ないことになるのだろう。
それでは、どうすれば爪先を上手につかえるようになるかということになる。
まず、爪先は日常の歩行で、縦に上下するようにつかわれているわけだから、その働きと感覚を身につけることである。更に、爪先の動きと息づかいの関係を知ることである。
次に、合気道の教えで爪先をつかうようにすることである。
その教えとは、天の呼吸と地も呼吸に合わせて体(爪先)をつかうことである。天の呼吸を、息を吐きながら足下(踵)に落としたら、息を吐いたまま足の爪先に体重を移動させる(日の息)。息を吐きながら爪先に体重を懸けると、そこで地から抗力が返ってくる(月の息)。この抗力に合わせて息を引いていけば(地の呼吸)、足が上がり、体が上がるのである。そしてここで体重を他方の足に移せばいい。
正面打ち一教をこの爪先づかいでやると大分よくなってきたようである。

体を上げ、下げ、そして体を安定させるのは、足の縦の十字に働く爪先であると自覚する。また、剣を振るのも、爪先をつかえば、剣を上げたり下げたりできるし、切り下ろした剣を腹で結ぶのも爪先の縦の十字でやればいいようだ。