【第732回】 魄の稽古から脱するために先ずやるべき稽古

そのままの稽古では先に進むことは出来ないし、いずれ体を壊すことになると見えてくるのである。
しかし、己の経験からして、その腕力などの魄の力に頼らない稽古の段階に移行していくのは難しいものである。
その理由は、日常生活で手をつかう事が主流であり、手や体の力に頼るのが普通だからである。つまり、腕力に頼るわけである。だから、手や体の力で技をつかうのは当然であるし、何故悪いのかということになるのだろう。
次に、更に上達するためには、腕力や体力に頼らない稽古に移行しなければならない事に気がつかないことである。

そこで今回は、「魄の稽古から脱するために先ずやるべき稽古」というテーマで、どうすれば魄の稽古から脱することができるかを考えてみたいと思う。

<前置き>
まず、魄の稽古は駄目だとか、間違いだという事ではないことを確信しなければならない。魄の力はあればあるほどいいのである。従って、まずは魄の稽古を力一杯、元気いっぱいやって、体をつくり、力をつけなければならない。
これは後で実感できることになるが、魂が働くためにも、この魂の土台となる魄の力は大きければ大きいほどいいのである。

さて、魄の稽古から脱するために最初にやるべき事であり、最も重要な事と思われることである:

  1. 手先と腰腹をしっかり結び、腰腹で手をつかうようにすることである。
    手は腹の前、体の正中線上に置き、腰腹が動いても、手は常に腹の前、正中線上にあるようにする。
    しかし、これでやろうとしても腰腹をねじってしまうことになるので、体にも悪いし、力もでない。この問題を解決するために、
  2. 足を右左、陰陽につかい、体軸を右左と移動しながら手をつかうのである。足で手をつかうということである。
    しかし、これだけだと手は直線的にしか動かせなく、相手の領分に入ったり、相手との結びが切れてしまったりして技にならない。直線から円の動きにしなければならないのである。円の動きの技になるためには、
  3. 腰腹を十字にかえすのである。腰腹の面と爪先の方向が十字になるようにするのである。
手を腰腹と結び、足を陰陽で、腰腹を十字に反し、腰腹で手をつかう事が、魄の稽古から脱するために、先ずやるべき稽古の基本要因である。この基本要因を身に付けるために最適な稽古は、片手取り呼吸法であろう。片手取り呼吸法を何度も何度も繰り返して、これらの1〜4の基本要因を身に付けていくのである。

片手取り呼吸法である程度、腰腹で手がつかえるようになったら、今度は諸手取呼吸法で試し、鍛えていけばいい。しっかりと掴ませた手で、諸手取呼吸法ができるようになれば、腰腹で手がつかえるようになったことになる。己の一本の手(片手)で相手の持つ二本の手(諸手)の力に勝ったことになるわけである。つまり、諸手より力が出せる腰腹(胴体、体幹)という異質の力をつかえることになったわけである。この異質の力をつかうことが、魄の稽古から脱するための大きな原動力になるわけである。
尚、この異質の力をつかうことが出来るようになった時は、これが合気道かと感動し、そこから本来の合気道の稽古に入れるはずである。

この稽古は、稽古の次元が変わることであるが、また、この後の稽古の段階を上がっていくための土台となり、出発点となる大事な稽古と考える。
もし、この稽古に移らず、手と腰腹を結ばずに稽古を続ければ、技が効かないだけでなく、合気道の本当の面白さや素晴らしさに触れられず、他のスポーツや武道と違わないではないかと、合気道に興味を失ってしまうはずである。