【第730回】 解く手とくっつける手
合気道は技を練って、宇宙の法則を見つけ、そして宇宙の営みを身につけ宇宙と一体化するために精進するものである。技を練るためにつかうのは主に手であるから、手を如何に上手くつかうかは大事である。手を上手くつかわければ技が上手く効かず、精進はなくなることになる。
手が上手く働いてくれるためには、先ず十分に働ける手をつくること、そして次に、その手を上手につかうことである。
十分に働ける手とはどのような手であるか、そしてその手をつくるためにはどうすればいいのか等はこれまで幾度にも亘って書いてきたので、詳しい事や細かいことは省くが、簡単にまとめると、名刀のような手にすること、気と力に満ちた手にすることである。強靭で柔軟な手をつくることである。
今回は、手に働いてもらうために手をどのようにつかえばいいのかを探究することにする。
実際相手がしっかり掴んできたり、打ってくればそれを捌くのは容易ではないものである。ただ単に手を動かしても手は働いてくれないものである。手に働いてもらうためには、やるべき事がある。例えば、手先を縦⇒横⇒縦・・・と十字々々でつかう、手は己の体の中心でつかう等一般的なモノがある。が、今回ここでは、技を掛ける前の手の働きの重要性について書いてみることにする。
技を掛ける前の手の働きには二つある。一つは、相手が掴んだ手から己の手を解くこと、二つ目は、相手の手や体にくっつけておくことである。これが上手く出来ないといい技が生まれないから、注意して手をつかわなければならない。
それではどのように手をつかえばいいのかというと、
<解く手> 初心者が苦労している、片手取り入身投げや小手返しに入るための手を想定して説明することにする:
- 手先と腰腹をしっかり結び、腰腹で手をつかう。これによって手を解いたりくっつける力と気が生まれる。
- 左右の両手を一緒に交差し相手の手にくっつけ、両方の手の平を、親指を支点として手刀側を返し、相手に掴まれている手を解く
- この手は息でつかう。イーと吐いて、クーで引き、クーで吐いて手をつかうのである。
- 手は足でつかう。手を動かす前に足が地に着き、そこからのエネルギーで手が上がり手先に気と力が満ちる。つまり、その力と気で相手をくっつけてしまったり、手を解いてしまえるのである。
手を解くことは、容易ではない。相手が力一杯掴んできたものから解くのはそうたやすくないのである。しかし、このしっかり掴まれた手を解くことは、技をつかうための前提であり、基本なのである。昔から、武道や芸能の初歩の導きを“手解き”と云っていたのである。この“手解き”が出来なければ先に進めないわけである。まずは“手解き”が出来るように稽古をしなければならないのである。
<くっつける手> 典型的な片手取り呼吸法でそれを見てみることにする:
- 天の浮橋に立つこと、これは相手をくっつけてしまう態勢である。
- 息で足を前に進め、手を出して摂らせ、相手の手にくっつけてしまう。
- 息を更に引きながら重心を他方の足に移し、手も十字に返しながら腹の前に移動する。相手と接している手には常に己の体重が掛かっており、手は相手にくっついている。
- 腰と足で体重を反対側に移動しながら、手をくっつけたまま振り上げ、そして相手の首を切るように下ろす。
このようにくっつける手をつくるためには、呼吸法、取り分け片手取り呼吸法が最適であると思う。尚、この片手取り呼吸法で上手く出来ない場合は、片手取りの転換法でやってみれば分かり易いだろう。逆に言えば、片手取り転換法が出来なければ片手取り呼吸法も難しいということである。
くっつけるということは、天の浮橋に立つということだとも考える。大先生は、常に天の浮橋に立たなければいけないと教えられているが、常にくっつけておくということだと考える。
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