【第729回】 息で筋肉をつくる

イクムスビ、そして阿吽の呼吸で技と体をつかうようになってくると、体の弱い個所や働きの悪い部位などに気がつくようになる。例えば、手先、肩、足首から先の足の部位、ふくらはぎ等々である。
技と体が上手くいかない場合、これらの部位が弱かったり悪かったりする場合と、それらの部位が機能する為に部位と部位の連動が駄目な場合がある。
これらの部位の働きは主に筋肉であるから、筋肉を鍛えればいいことになる。
これまでは、どの筋肉を何故、どのように鍛えればいいのかをあまり意識しないで、只鍛えればいいだろうと漠然と鍛えてきたが、ここに至って、どの筋肉を鍛えなければならないのかが分かり、意識した理合いの鍛え方が出来るようになるのである。

筋肉を鍛えるとは、筋肉に弾力性と強靭性を持たせるようにすることである。
合気の技をつかう際に、上手くいかない場合の原因である体の部位を見つけ、そこの筋肉を伸ばし、引っ張って強靭にするのである。例えば上記にはその箇所は示したが、これとは別にも各部位の筋肉を鍛えればいい。それは、手先(指先、手の甲、手の平)、手首から肘、肘から肩、肩から腰腹、また、足首から爪先、足首から膝、膝から股関節、股関節から腰腹である。

先ずは体の末端から鍛えるのがいいだろう。手の場合は、手先を鍛えるのである。初心者の手先は歪んで気と力の張りがない。これを名刀のような手先にするのである。それ故、手先を見ればその人の技量がわかることになる。
どうすれば手先が名刀のように鍛えられるかというと、息でそこの筋肉と関節を柔軟・強靭にするのである。手の平をイーで息を吐いて拡げ、そして拡げ乍らクーと息を引いて(吸って)更に拡げ、今度はそのまま息を吐いて更に拡げるのである。
そして同じように、肘、肩‥等々を鍛えていけばいい。

これが出来るようになれば、体の下の末端の足首から先の足の部位も同じように鍛える事ができるものである。
手と足の末端の部位を鍛えられるようになれば、中心に向かって各部位を鍛えていけばいい。
自主トレのストレッチ運動もいいし、相対稽古の技と体づかいで、そこを意識して鍛えていけばいい。

各部位の筋肉を個別に鍛えたら、次に各部位の筋肉が連動して機能するように鍛えるのである。部分々々が強靭でもその繋がりがなければ腰腹の力は手先、足先に伝わらないので技にならないのである。各部位の筋肉の繋がりがなければ、その箇所が折れ曲がったり、弛んだりしてしまうのである。
各部位の筋肉が繋がり、折れ曲がらずに各部位が連動して働くためには、やはり息づかいが大事である。手なら手先から腕、上腕、肩、背中、そして腰腹を息で結んで、腹からの息で手先を動かすのである。イーと息を吐き、手先から腰腹を結び各筋肉を?げ、クーと息を引き乍ら更にそれらの筋肉を強靭にし、更に息をムーと吐きながらつかうが、この息づかいはそれらの筋肉を更に強靱にするのである。それらを繋げることによって、手から肩、胸鎖関節そして腰腹までを一本の強靭な名刀のようにするのである。

このように、息づかいで筋肉を強靭にし、弾力性を持たせる鍛錬、そしてそれを技づかいにつかうのは、容易でないかも知れない。
その理由は、一つはイクムスビの呼吸が十分にできていないことである。胸や腹が硬く、息を十分に吐き、引くことができないのである。
イクムスビのイクムで体の筋肉を鍛えるわけだが、二つの方法がある。
一つは素手でやる方法、もう一つは木刀や鍛錬棒をつかっての方法である。
どちらがいいかというと、両方やるのがいい。ただし、どちらも各部位の筋肉を鍛えるということ、また、それらの筋肉を連動してつかえるように鍛えるということを意識して鍛錬しなければならない。

二つ目は、肩が貫けていないことである。肩を貫くに関しては、これまで説明してきたのでここでは省くが、大事なことであり、これが出来なければ体が思うように働いてくれないし、技も掛からないから、肩を貫くことは必須であるということである。