【第726回】 便利グッズに要注意

街を歩いていると気になるのは、正常に歩行できない人が年々増えてきているように見える事である。後期高齢者は仕方がないとしても、元気で働いているはずの若者にもまともに歩けていない人が増えてきているのである。後、5年、10年後には歩けなくなるだろうと思えるのである。

テレビを見ていると便利グッズの宣伝に満ちている。まるでテレビは便利グッズ販売に占拠されてしまったと思わされる。これを見ると便利グッズは大いに需要があるのだなと思う。
例えば、自分で運動しなくとも筋肉がつくバイブレーション、自分が動かなくともつけるだけでぜい肉が落ちるマッサージ器、飲めば元気で若返るサプリメント、飲めば膝の関節の痛みが消える薬等々。

確かに便利グッズは便利であるし、手軽に入手できる。体が思うように動かなくなったり、病気で寝たきりになったり、足腰が固くなったりして動けないのなら便利グッズは便利であり、命の恩人かもしれない。このような人は私の研究の対照ではない。お医者さんの担当であり、ビジネス界の担当である。私は便利グッズを合気道の目で見ているのである。合気道的に見れば、便利グッズで自分を変えるのは難しいと思う。便利グッズを使う事によって自分が変わり、元気に、健康になったなどと思うようだが、そんなモノで自分は変わらないものであると思っている。
やはり自分自身の、自分の中から変わらなければならないはずである。
自分の中から変われる方法を言ってくれれば、便利グッズより効果があるはずだが、どこも誰も言ってくれない。金にならず、ビジネスにならないからであると考える。

年を取ってきたら、己を大局的に見なければならないと考える。勿論、別に己を大局的に見つめなくとも生きていける。しかし、お迎えが来た時、自分の人生は何だったのか、生きてきた意味はあったのか等々考えるのではないかと思う。その時、その答えが出せなければ悲劇だと思うからである。

年を取ってくると、衰えていくのが分かる。また、進歩しようと思っても中々進化しないことも分かってくる。そこでなるべく退化を遅らせ、進化をしようと勤めようとすることになる。そして、進化は難しいが 退化を遅くすることはできることがわかってくる。また、毎日、刻々と退化しているから、毎日、刻々進む退化を遅らす努力をしなければならないことも分かってくる。

退化には、筋力、内臓器官(肺、心臓等)、聴力、視力等の退化と知能、記憶力、理解力、運動能力などの退化があるだろう。合気道の稽古を長年続けていると、これがよく分かる。何も運動をやっていない人にはその退化の推移や変化が分かり難いだろう。だから医者に見て貰ったり、病院で検査してもらわなければならないことになる。

これまでは世間一般に言われていることであり、どうという事はない。
さて、それではこれらの退化をどのようにすれば、その速度を減速させることが出来るのかを書いてみたいと思う。勿論、合気道の修業がその元になっている。
退化の減速を抗退化とすると、抗退化のためには、“刺激と緊張”が必要であると考える。合気道では相対稽古で技を掛け合い、受けを取り合うことが “刺激と緊張”を生んでいるはずである。日常生活でも“刺激と緊張”があれば抗退化のはずである。

人間は毎日、そして刻々と退化していく。だからこの退化を遅らせるためには、毎日の抗退化策が必要になるし、出来れば刻々の抗退化策があればいいことになる。毎日、刺激を与え、緊張し、そして出来れば刻々、24時間常に刺激を与え、緊張するように努めるということである。これが合気道での修業ということになろう。
因みに私の場合、毎日の抗退化策を大の抗退化法といい、それは毎朝の禊ぎである。
小の抗退化法は、足で歩く、立つ、上り下りするであり、極力乗り物をつかわないよう、電車の席にすわらないよう、エレベーターやエスカレーターを使わないよう、また稽古カバンや書類カバンをリュックなどで背負わず手に持つようにしている等である。 

将来は分からないが、今のところは便利グッズには頼っていないし、頼りたくないと思っている。