【第726回】 足部もしっかりと

前回の第725回「折れ曲がらない足」では、足首から膝と膝から股関節までの足が折れ曲がらないようにしなければならないと書いた。

今回も足であるが、今回は足首(写真)から爪先までの足部もしっかり鍛えて、しっかりつかわなければならないということを書く。

この足部は、手では手首から手先に相当する部位(手の平・手の甲)である。
手の部位、手先について再三書いてきたように、名刀の切っ先のように、折れ曲がらず、強靭でなければならない。また、腰腹からの気と力を手先と結び、そして通し、縦と横の十字に返しながら円くつかわなければならないように、この足部も腰腹の気と力と結び、通して、腰腹で十字々々に返してつかわなければならない。
足部も手先同様、しっかり鍛え、そして繊細につかわなければならないのである。

ここまではこれまで書いてきたと思うが、次に足部を強靭にし、そしてしっかりとつかう方法を書いてみることにする。
それは足部を天地の息と地の息でつかうことである。息づかいによって、足部を強靭にし、技と足部をしっかりつかうのである。

一般的に引く息は火であり、□であり、自由であり、そして強靭さをもたらす。これは地の呼吸、潮の満干の呼吸である。技は息を引いて掛けると、相手を導き、制する事ができるのである。
そして、吐く息は水であり、○である。天の呼吸である。技をつかう際に息を吐いて、天の息を地に下ろし、己と地そして相手と結ぶのである。
しかし、地の呼吸に潮満の息と潮干の息があるように、天の吐く息にも、日の息と月の息がある。これを日月の呼吸という。だがここで注意しなければならない事は、日月の呼吸は天の呼吸であるから、吐く息ということである。日の息も月の息も共に息を吐いているわけだから、己の息もこの息に合わせて吐かなければならないのである。

日の息(呼吸)に合わせる息づかいは問題ないが、月の息づかいをどうするかということになる。
それは、息を日の息で吐いて息と気を地に下ろし、そして引き続き息を吐き続けると必ず下りた気が戻ってくる。これが恰も月の引力によって引っ張れて上がってくるような感覚になる。月の息、月の呼吸と感得するのである。
この月の息が働くためには、足部がしっかりしていなければならない。足部が地にしっかりと着き、足部が気で満ちており、足部に体重がしっかり乗っかっていなければならないのである。

月の息が働くと、気と息が(月に)上がって、そして地の呼吸に結びつき技が生まれるわけである。
月の息が働くためにも足部をしっかり鍛え、そしてつかわなければならないわけだが、そもそもこの月の息自体が非常に重要なのである。
まず、魄を脱して、魂を生み出す真の合気道をするためには、この月の息づかいが大事であるが、この他、一般生活に於いても非常に大事であるのである。この月の息づかいを意識しなかったり、無視すれば、段々と歩くことも動くこともできなくなるからである。

街を歩いている高齢者や足の不自由な方の歩き方を見ていると、多くの方々が息を吐いて日の息によって足を地につけることは出来るが、その足が上に上がらず、横に体重を移しながら歩いている。このような方々が増えているのを心配している。
若い人たちは、無意識の内に息を吐きながら、天の息で体を地に落し、そして上げているが、日の息を意識していないはずなので、年を取ってくると足を引きづったり、ロボット歩きになる危険性があるように思える。

息を吐きながらの天の呼吸の日である呼吸と月の呼吸は難しいが、実は誰もが日常でつかっている歩き方なのである。
息を吐きながら、踵から地に着け、そのまま爪先に体重を移動すれば、月の引力に引っ張られて体が自然に上に上がっていくのである。子供たちや若者は無意識でやっているが、出来ないのは、息が上手くつかえなかったり、爪先に体重が移動できないから月の呼吸ができないか、また、その逆だからである。
因みに、私は高校時代に走高跳をやっていたが、高く跳ぶためには、息を吐きながら踵に全体重を掛け、そして息を吐き続けながらすかさず足先(小指球や母指球)に体重を移動して踏み込むが、ここで日の呼吸と月の呼吸の天の呼吸が働いて一瞬の宇宙遊泳ができたということであったわけである。
お陰で、足部は結構鍛えられたようで、今に役立っているのだろう。