【第724回】 地上楽園建設の生成化育とは

合気道に入門して4,5年の間、大先生にはいろいろと教えを受けていた事が最近になってようやく分かってきた。
当時は元気いっぱいで、相対稽古での相手を何とか倒そう、極めようと思って稽古をしていた。そういう稽古をしていると、突然大先生が道場にお見えになり技を示して下さったり、道話をされたりした事がよくあった。
しかし、大先生の技はよく分からないし、その技のつかい方や要点などを話されるでもなかったし、技に関するご説明も禅問答のようなもので、「合気の技は力は要らない。箸一本持つ力で十分だ」等と言われていたのである。その上、力を抜いた稽古をしているのを見つけられると、“触って倒れるような稽古はするな。しっかり掴ませ、打たせなさい”などと、烈火の如く激怒され、お説教されたものである。

道話もほとんど分からなかった。時間は数分の時もあったし、20,30分の時もあった。言葉一つひとつは大体わかるが、全体の意味が分からないのである。しかし、不思議と当時の大先生の道話は耳のどこかに残っているようで、時としてそれを思い出す。
大先生は、合気道は宇宙との一体化であるとある時は言われ、またある時は合気道は地上楽園建設の生成化育であるとも言われていた。
当時は、相手を何とか倒そうとばかり考えて稽古をしていたので、合気道はどんな相手も倒すように強くなればいいのだろうと考えていた。従って、宇宙との一体化とか地上楽園建設の生成化育が合気道であるなど分からなかったし、分かろうともしなかったのである。
しかし、一つだけ覚えているのは、合気道の稽古の目標が二つもあるということが腑に落ちなかったことである。何でも目標というモノは一つのはずだからである。しかし、これも未熟の由縁であることが後になって分かることになるのである。

合気道にも小乗の合気道と大乗の合気道がある。小乗、大乗は仏教の言葉である。小乗とは己の為の修行の目標であり、大乗は万民、万有万物の為の修行だと思う。合気道の小乗の修行の目標は己が極限に到達することであり、それが宇宙との一体化ということになるだろう。そして大乗の修行の目標が、 “地上楽園建設”であると言われていたわけである。
従って、大先生は、大乗と小乗の目標を言われていたわけで、合気道に二つの修行目標があることになるわけである。
合気道だけでなく、すべてのモノから学ばなければならないとはこのような事であろう。

さて、合気道は、地上楽園建設の生成化育である。この言葉は何度もお聞きしたので十分耳に残っているのだが、その意味するところが、これまで明瞭ではなかった。そして、この意味は思ったほど難しいものではなかったのである。大先生は、“地上楽園建設の生成化育”とちょっと難解な言葉をつかわれていたわけだが、もっと分かり易い言葉でも我々を導いて下さっていたのである。
『武産合気』に「月へのロケットとか、だんだん進んだ知識を啓発して、与えられた使命の上に、人類の幸福をもたらそうと一生懸命やっている。(P.62)とある。これこそが“地上楽園建設“ということである。つまり、

尚、生成化育とは、生かし育てる事である。
つまり、“地上楽園建設の生成化育”とは、与えられた使命として、人類の幸福をもたらそうと己自身が一生懸命やることであり、また、他人が人類の幸福をもたらそうと一生懸命やる支援をすることということになろう。それを邪魔したり、破壊するのを避けるのが武の役割と大先生は教えておられるのである。
因みに、人類だけが“地上楽園建設の生成化育”をしているわけではなない。大先生は、糞ころがしでさえ汚物を片付け万有万物に幸福をもたらそうとしていると言われているのである。