【第722回】 基本の形のおさらい

5年、10年・・・と稽古を続け、3段、4段・・・となっていくと、大概の後輩には技は上手く掛かり、相手を倒したり極めたりできるようになるものである。しかし、これで安心したり慢心してはいけない。形を覚え、力がついたということではあるが、まだまだ不完全なのである。基本の形を覚えたつもりでも、表面的になぞった程度であるし、力も手先の腕力でそれほどの力ではない。二教でも三教などの基本中の基本技(形)など形になっていないし、武道としては隙だらけなのである。
また、一寸応用的基本形、例えば、肘ぎめ(肘ひしぎ)や内回り小手返し等は出来ないし、教えても容易に覚えきれないのである。

基本形や上記のような応用的基本形はそれほど数は多くないので、有段者は全てひと通りできなければならない。出来ない形や苦手な形はあまりやりたくないものだが、恥を忍んでもやるべきである。
誰にでも得意の形があるはずである。その得意の形のレベルに他の形も不得意形も引き上げることである。
武道であるから弱点を持つことはまずい。敵は必ず強い処を避け、弱いところをついてくるからである。

それでは己の不得意の形をどうすればレベルアップできるかということになる。
まず、これは不得意形であるということを認識することである。しかしこれも難しいはずである。力の無い、形を良く知らないような相手と稽古をしていれば、相手は何をどうやっても効いてしまうので、それに気がつかないからである。長年稽古をしている上の相手とやればそれを気づかせて貰えるはずである。
次に、稽古時間中で上手く出来ない形、例えば“肘ひしぎ“が上手くいかなかったなら、稽古が終わった自主稽古で仲間と稽古をすればいい。我々が若い頃やった稽古法である。仲間内でああだろうこうだろうと試すのである。その内誰かが上手くやるとそれを他の者が上手くいったと喜んだり、これでは駄目と再挑戦したりするのである。仲間に負けたくないという対抗心が働くようである。偶にはそれを見た先輩や先生がこうやるのだと模範を示してくれたりもした。直ぐにはできないはずだから、出来るまで研究し続けなければならない。どれだけ真剣に挑戦するかによって出来るかどうかが決まってくるだろう。一番よくないのは、出来ないことを出来るようにしない事である。不得意形を不得意形のままにして置くことである。

稽古は新しい形や技を身につけるなどの先への稽古と不得意形を見つけて得意の形に変えていくなどの過去に戻る稽古があるだろう。過去へ戻る稽古をすることによっても技のレベルアップと技のレベルの均一化ができ、隙のない形が身に着くはずである。
これを基本の形のおさらいと言っていいだろう。