【第72回】 暗号を解く

開祖が亡くなったのは1969年なので、早くも40年近くになる。開祖から合気道を直接教わった人も少なくなってきており、開祖の言葉や考えを直接伝える人も数えるほどしかいなくなっている状況である。従って、開祖の言葉や考え、開祖が求めていた合気道を知るには、開祖の道話の口述記録である「武産合気」と、合気道新聞に掲載されたものをまとめた開祖語録の「合気真髄」を研究するほかないだろう。

開祖の道話は聞いていても難しく、ほとんど理解できていなかったが、上記の本も今読んでも難しい。しかし、開祖は「合気道はどうしても天の浮橋に立たなければなりません。」とか、「宇宙と人体は同じものである。これを知らねば合気はわからない。」「この山彦の道がわかれば合気は卒業であります。」など言われているように、合気道を修行していく上で、天の浮橋、宇宙、山彦の道などが分からなければ、絶対に合気道は分からないということを言われているわけだから、難しくとも理解すべく努力しなければならない。

また、開祖は合気道とはどういうものかということも言われている。例えば、 「合気道とは、宇宙の万世一系の理であります。」「合気道とは、天授の真理にして、武産の合気の妙用であります。」「合気道とは、天地人、和合の道とこうなるのでありす。」「合気道とは、万有の処理の道であります。」「合気道とは、言霊の妙用であり、宇宙のみそぎの大道であります。」「合気道は松、竹、梅の三つの気によって、すべてがでてきます。」「合気道は天之ムラ雲クキサムハラ竜王の働きであります。」「合気道はまたアエイオウの五つの声の働きでもあります。」「合気道は小戸の神業であります。」「真空の気と、空の気を性と技とに結び合いて練磨し、技の上に科学しながら、神変万化の技を生み出すのです。そして練磨するのが武産の合気であります。」などである。

合気道を誤った方向に行かず、本流を行くためには、開祖の語録をよくよく研究する必要がある。が、使われている言葉がわからなければ、なんのことなのか分からない。

開祖の言われていることを理解するのは容易ではない。それは我々の浅学や経験不足にもよるが、開祖が大事なことを凝縮した言葉で表現しており、しかも象徴的な表現で、字面では分からないことだからである。それは、我々にとっては恰も「暗号」のようだとも言える。例えば、上記の語録の中から抜き出しただけでも、天の浮橋、宇宙の万世一系、松竹梅、天之ムラ雲クキサムハラ竜王、アエイオウの五つの声、小戸の神業、真空の気と空の気などがある。また、通常、稽古で何気なく使っている言葉にも「暗号」と言ってもよいものがある。例えば、呼吸、入身、転換、小手返し、合気等々である。その他、開祖の語録には、全く言葉を伏せている真の「暗号」もある。例えば、「禅といっても坐る必要はない。合気をやっていれば、それが禅である。ある指の中に、皆フクマレているのだ。」(合気道新聞第34号)などがいい例である。

合気道の修行では、この字面では分からない「暗号」を解いていくのが非常に大事なことであるし、またこの「暗号」が解けなければ合気道の上達はないだろう。しかしながら、「暗号」を解くために書物を読むのもいいが、合気道では「暗号」を身体で解かなければならない。頭で分かったことを、身体で試し、身体で判断し、試行錯誤し、悟ることを繰り返していかなければ、合気道の「暗号」は解読できないだろう。「暗号」が解けたというのは、頭だけではなく、身体で分かったということである。

ひとつひとつ地道に「暗号」を解読し、技に取り入れていかなければ上達はないだろう。