【第718回】 次の人生のために

後一年一寸で80歳になる。80歳だからどうっていうことはないだろうが、私にとっては、80歳を一つの節目にしようとしている年になるので大事なのである。前から言ってきているように、80歳になったら一人前になろうと思うからである。それまでの半人前から一人前になる転換期になるわけである。
合気道的に云えば、80歳までは人生の土台づくりの時期であり、80歳からはその土台の上に心主体での人生を送りたいと思っている。これまでの見えるモノを追い求めていたのを、見えないモノにも価値を見出し、大事にしていきたいと思うのである。その見えないモノの典型は心である。己の心、他人の心、万有万物、つまり宇宙の心である。己の心に従って、その心が満足するようにやっていくことであり、他人も宇宙も喜んでくれるように振る舞うことである。その為の振る舞いは、万有万物の使命である宇宙楽園建設のための生成化育に繋がる事である。

合気道では、魄の稽古で体の土台づくりをし、そして今度はその土台を基として魂の稽古に入らなければならないのである。
土台になる体は誰にでも出来るものだが、次の次元の魂の稽古に入るのが難しい。その難しさのひとつは、魄の稽古の後に真の合気道の魂の学びがあることが分かっていない事である。魄の稽古は魂の学びのための準備段階の稽古なのである。二つ目は、魂の学びの土台となる体が十分鍛えられていない事である。手が名刀のように折れ曲がらずしっかりしていないとか体の節々にカスが詰まって十分な働きができないことである。

このように合気道の稽古で、次の段階に進むのは容易ではないわけだが、人生でも80歳からの生き方は難しいように思う。
80歳ぐらいに後期高齢者になると、合気道で魂の稽古に入っていれば、日常生活で心の領域に入っていくのはそれほど難しくはないように思う。難しいのは、それまで培ってきた心身の土台の改善と維持である。年を取れば体はどんどん衰えるのが自然だからである。


若い内は強いモノ、強い個所が弱いモノをカバーしてくれ、心身がバランスよく機能しているようであるが、年を取れば弱い個所が身心のバランスを崩し、機能を阻止するようだ。従って、若者は強いモノ、強い個所を鍛えればいいし、高齢者は強い個所を鍛えるよりも、弱い個所を補完したり、鍛えた方がいいし、また弱いモノや弱い個所がないようにバランスを取るのがいいことになる。

101歳で現役で働かれているお医者さんがいる。医師の名は田中旨夫。田中医師は、101歳の現役医師として毎日患者さんを診察しているというが、どうすれば101歳まで、頭がクリアで、仕事もバリバリこなせるのかの秘策を次の様に紹介している。

己はこの28の秘策の内、残念ながら10はやっていないか違反しているようだ。前述したように高齢者はこの内のひとつでも欠けていれば、それが命取りとなるはずである。若い時はこの内の2,3欠けても他のモノで補えるが、高齢者は違う。一番駄目なモノがお迎えを呼ぶことになるはずだ。例えば最近経験しているのは、「塩分を減らして素材を味わう」である。確かに塩分を取りすぎていたようで、頭がふらつくことがあったが、塩分を控えるとそれが無くなったし、素材の味が楽しめるようになった。

80歳からはこれまでの自分の生活を振り返り、これまでの惰性や習慣を見直したいと考える。そのためにこの田中医師の秘策が非常に参考になりそうである。もしかしたら101歳までお迎えを遠ざけることが出来るかもしれない。


参考文献 『101歳現役医師の死なない生活』(田中旨夫医師 幻冬舎)