【第714回】 引く息が体を伸ばし張り、繋げ、活性化する

前回の第713回では菱形筋について書いた。この菱形筋を意識してつかうようになると、新たなことが分かってくるのである。
一つは、息を吐き、息を引いて腹から脊柱、そして菱形筋、肩、腕、手先に気が流れ、手先が伸び張ると、それと連動して気と力が、腹から股関節、太腿、ふくらはぎ、足先に流れることである。腹を支点として、上半身と下半身が対照的に機能するということである。つまり、菱形筋が働けば、ふとももも働くわけである。これをはっきりと感じたければ、精一杯に菱形筋をつかうように技を掛けてみるといい。思い切り息を引き、菱形筋を張り伸ばし、手先に気と力が出るように技を掛けるのである。1時間の稽古の後、ふともももしっかりすると同時に軽く柔軟になっているはずである。
また、山歩きをすると、菱形筋は緩み、肩がほぐれるが、これは菱形筋と対照にある太ももが緩み、ほぐれたからであると思う。

二つ目は、腹から脊柱、そして菱形筋、肩、腕、手先に気が流れ、手先が伸び張るのであるが、この気の流れは十字になっていることである。腹から脊柱の縦、脊柱から肩までの菱形筋で横、肩から手先までの縦と、縦→横→縦の流れである。下半身も同じで、気を腹から下腹の縦→股関節を拡げるの横→足下に落すの縦となる。

三つ目は、菱形筋を働かすためには気を目いっぱい引かなければならないわけだが、これが出来ると、腹と脊柱、脊柱と菱形筋、菱形筋と肩、肩と腕、腕と手先が繋がるようになることである。これらの繋がる箇所が一か所でも繋がらなければ、技にならないことになるわけである。体の各部位の繋ぎのためにも菱形筋の錬磨は重要である。
因みに、大先生は息を吸うことを“息を引く”と言われている。自分でやってみると分かるはずだが、息を吸うと吐くでは全然違う感覚である。息を吸うは、金魚がパクパクしているように、口先の息づかいの感じがする。一方、息を引くは、金剛力士の阿吽の呼吸のように、腹から息を吸い込む感じである。それ故、武道の合気道では、息を引くが相応しいと思っている。

四つ目は、息を引いて菱形筋が働くようにすると、手先に気と力が生まれるわけだが、慣れてくると気を自分の思ったところに生むことが出来、そしてそこを活性化するようになる。脊柱、菱形筋、肩(肩甲骨)、肘、手首、指先および腹、股関節、太腿、ふくらはぎ、足首、指先等々は勿論のこと、他の箇所、例えば、目、口、鼻、耳、頭などにも気を生み、流し、活性化することが出来るのである。
これによって、痛めた箇所や弱い個所に気を送ったり生んだりできるし、目が疲れたり、頭がボーっとしていれば、腹から手先に流れる気の姉妹流として送ればいい。気という生命エネルギーによって活性化するわけである。
但し、深層筋である菱形筋を機能するための、引く息でやらなければ出来ないし、また、もし、吐く息でやればそこが活性化するどころか害してしまったり、倒れてしまう事になるかもしれないので注意しなければならない。

これが、引く息が体を伸ばし張り、繋げ、活性化するということだと考える。