【第712回】 動きはまゆ

合気道の思想と技の『第712回「合気会」認可申請上申書の“合気道”』で、戦後のGHQ占領の下、「合気会」を認可してもらうための上申書で、合気道とはどのようなものであるかを次のように定義さられたと書いた。
「そもそも合気道とは、(略)天地に融合する心身の保健、加害に対する護身の技術であります。護れば一つの球となり、展けば四角となり、構えては錘となり、動いては繭形となり、縮みては珠玉となり、真に千変万化、名状することが出来ません。」(『合気道開祖 植芝盛平』)

合気道とはどのようなものであるかが端的に書かれているわけだが、この中で“動いては繭形となり”はそれまで見たことも聞いたことがなく、また、何か奥深いモノがあるようで興味を持ったので、今回研究してみることにした次第である。

合気道は動けば繭形になるということであるが、先ずは文字から解釈してみることにする。
“合気道は動けば”とは、合気道で技をつかうということになるだろう。合気道の技は宇宙の営みを形にしたモノであり、宇宙の法則に則っているわけだから、結果にも法則が現れるわけである。それが繭形である。つまり、技をつかえば繭形にならなければならないということになるわけである。

次の問題は、何処が、そして何が繭形になるのかということである。繭の形が繭形だから、繭形は問題ないだろう。真丸の球ではなく、細長い玉である。

合気道の技をつかうと繭形になる箇所は二カ所あると思う。
一つは、体、取り分け手の軌跡である。合気道は円の動きであると言われるが、真丸の円、つまり真丸の球ではなく細長い玉になるという事であろう。
真丸でなく細長い玉とは、中心の支点が一つに固定するのではなく、支点が左右に移動しながら出来る玉ということになるだろう。
技を掛ける際の手の動きの軌跡は繭形になるようである。直線的ではなく、途切れることもなく円くつながった細長い円になる。
大先生の演武などの動きを思い出したり、映像で拝見すると、繭形の動きであるようにも思える。
二つ目は、腹の動きである。腹の中が繭形で動くのである。真丸ではなく、左右と前後にも動くので、細長い玉になるのである。この細長い玉の中には玉が入っていて前後左右に転がり、体の重心を変える。体の重心移動は、これまで陰陽十字でやってきたわけだが、これだけだと腹は繭形ではなく、直線的な細い棒の動きになってしまう。
尚、腹が繭形で動けば腹と繋がっているその末端の手も繭形で動くことになるはずである。
また、繭形にするためには、陰陽十字に加えて、天地の呼吸と赤玉白玉などが必要になるようだ。

正直、“動いては繭形となり”はまだよく分からないので、更なる研究が必要である。しかし、大先生は、合気道は“動いては繭形となり”だと言われているわけだから、繭形になるように技をつかって行かなければならない。それがある程度できるようになれば、何処が何がどう繭形になるのかが分かってくるはずである。


参考文献 『合気道開祖 植芝盛平』(講談社)