【第709回】 強靱な手をつくる

合気道は相対で技を練り合って精進していく武道であり、動きは剣の動きと関係すると言われる。合気道は素手で技を掛けるが、剣道は剣で切り合うわけだから、合気道の手は剣道の剣としてつかう事になる。
手が剣のようになるということは、手の動きが剣道の剣のようにするということと、もう一つ、手が剣の様に強靱でなければならないということにもなる。それも折れ曲るような鈍刀ではなく、真っすぐで折れ曲がらない強靭な名刀でなければならない。肩から指先まで歪みやたるみの無い、真っすぐな名刀のような手である。

合気道の手の主なつかい方は、打つと掴む、そして打たれると掴まれるであるが、この四つの手のつかい方において、手は名刀の様に真っすぐで折れ曲がらなく強靭でなければならない。正面打ちや横面打ちで打つ場合も、また受ける場合も然りであるし、掴む場合も掴まれる場合も同じである。

しかし、手が名刀の様に真っすぐで折れ曲がらずに強靱にするのは容易ではない。それは多くの稽古人の手を見ればわかる。先ず、手先、指先が曲がり真っすぐになっていないし、真っすぐに伸ばそうとしても出来ないのである。
手先、指先を真っすぐに伸ばそうといくら力んでも真っすぐにはならないのである。指先を真っすぐに伸ばすのは息づかいでやるのだが、合気道の技は体よりも息で掛ける事がわからないとこれに気づかないからである。
手先、指先を真っすぐ伸ばすのなら、イと息をちょっと吐いて手先、指先を伸ばし・拡げ、クーで息をその手先、指先から腹に引くと、真っすぐ、そして強靭になる。そしてここから更に息をムで吐きながら手先、指先に息と力を入れると更に伸び、そして更に強靭になるのである。

ここまでは以前に書いたことである。今回はこれを更に進めることになる。
難しい正面打ち一教で肝心な事の一つに、この手が真っすぐで折れ曲がらなく強靭な手でなければならないことが改めて分かったのである。相手が強力に打ってくる手をしっかり受け止め、そしてその相手の強力な手と体を返すためには、己の手も強靭でなければならないのである。打ってくる相手が弱かったり、打ちが弱ければ、その手を捌くのに鈍刀の手でもいいだろうが、相手が真剣に打って来ればそれでは捌けない。

正面打ち一教で思い切り打ってくる相手の手を抑えるためには、己の手は真っすぐで折れ曲がらなく、強靭な手にならなければならないわけだが、只、手を出しても強靭な手にはならない。
強靱な手になるためには、手(右手)を上げる際、息を吐いて手を伸ばし、相手の手と接触したところで、息を引き(吸い)ながら手を更に伸ばし手を更に張るのである。阿吽の阿で息と気を体中に満たし、手先に気を流すのである。手先と腹が更にしっかりと繋がるので、手先、そして手が更に強靱になるのである。

右手は十分に強靱になったわけだが、相手の肘にある左手はまだ強靭ではない。この左手を強靭にするためには、体幹を返さなければならない。具体的に云えば、左側に横を向いていた腹を正面の相手に向けるのである。そうすると己の右手と左手の中心に己の顔と腹が位置することになり、そして右手にあった強靱な力が左手にも産まれてくるのである。この強靭な左手で相手の肘を支点にして体の師からで相手を抑えるのである。

この強靭な手を阿吽の呼吸でつかえば、この手が土台になり、腕力や魄力の力ではなく、相手をくっつける引力、念や心の魂で相手を制し、導けるようになるようだ。