【第707回】 腰腹を更に鍛える

魄を土台にして魂(念、心)で技を掛けるように心がけるようになると、腰腹の重要性が更に分かるようになる。例えば、相手との接点にこちらの体の力(体重)が掛かるようになるが、接点の手を動かしてしまうとその力が逃げてしまう。接点に掛かった体重を逃がさずに、その力を維持して魂で技をつかうには、接点の手を動かさずにくっつけたまま腹で接点を動かさなければならない。

これまで体の末端の手を腰腹で動かすために、左右の足に体重を陰陽十字に移動したり、腹の中の玉を∞に動かすと書いてきた。
しかし腰腹の更なるつかい方とその為の腰腹の鍛え方があることがわかったので書いてみる。

ここでは腰腹と言っているが、それは腰と腹とは一対、一体で働いてくれているので、片方だけでは片手落ちになるためである。腰腹の腰は体(たい)、腹は用(よう)であり、体の腰は中心であり、腹の働きの支点である、謂わば指令所、そして腹は腰の支点の先にある用をする作業現場と言えるだろう。
今回は腰腹とか、腰とか、腹などと書く箇所もあるが、常に腰腹一対、一体となっている腰腹と記す。

今回の主題は「腰腹を更に鍛える」である。鍛えるとは、柔軟堅固にすること。腰腹を柔軟堅固にするとは、腰腹が陰陽十字に機能すること。そのためには、腰腹の骨と筋肉のカスを取り、それらの骨と筋肉が別々に働く等にすることである。腰腹が陰陽十字に機能させるのは、息である。息は阿吽の呼吸である。

技は体の中心の腰腹でつかう。腰腹は体の中心で、腰から力を出し手と足をつかうが、足に体重をのせるため、腹の中心は足の上にくるように移動しなければならない。腹の中心が横にスライドするわけである。
しかし、腰腹は通常、股関節としっかりくっついているから、スライドは難しい。

腰が横にスライドするためには背骨の下の骨と股関節のしっかりした結びを外さなければならない。通常はここがしっかり結びついているから、快適な活動ができているのである。
この結びを外すためには息をつかわなければならない。息は阿吽の呼吸である。ンからアで息を腰に入れると背骨の下の骨と股関節の結びが外れるから、外れたらそこから腰を横にスライドすればいい。正面打ち一教は非常に難しいが、その難しさと解決法がこの腰腹のスライドにあると考えている。

この腰腹のスライドを技につかうのは初めは難しいから、一人稽古で身につけるのがいいだろう。そしてその準備運動として、開脚のストレッチ運動(写真)がいいだろう。

床に腰を下ろし、足を開いて、前と左右に体を倒す運動である。
左の場合、①息を吐きながら、体を左足の上に倒す。②体が止まったところで、阿吽の呼吸のアで腰に息を入れる。腰が緩み上に上がってくる。③上がったところから腹の中心を更に左にスライドさせる。それまで足の横までしか行かなかった腹の中心が左足の真上にのるようになる。

右も左と同じである。前に倒すのも同じであるが、それを実感する為に、前に倒す場合、真前に倒さずに、正面から右か左に5度、10度ずらしてやってみればいい。左や右と同じ結果になる事が分かるだろう。

腰腹が自由にスライド出来るようになれば、手先を動かさなくとも、腰腹で技が自由につかえるようになるだろう。技づかいは変わるはずである。