【第706回】 更なる十字

正面打ち一教をここ数年研究しているが容易ではない。技が思うように極まらないのである。相手に頑張られたり、押し返されたりするのである。
前から言っているように、正面打ち一教は合気道に於ける極意技であると思っているから、奥深く、繊細であり、難しいことはわかっている。正面打ち一教は、大先生も学んだ大東流では一本捕に当たり、刀で切りつけられるのを素手で取り押さえる、柔術の基本中の基本であろう。その一本捕を源とする正面打ち一教も合気道の基本であり、合気道では最も大切な技である極意技であると考えている。

一本捕と正面打ち一教との関係と同じ関係の技がもう一つある。それは大東流の合気上げと合気道の坐技呼吸法である。合気上げは大東流の基本技であるのと同様、坐技呼吸法は合気道での基本中の基本技であると云っていいだろう。
大東流はよく知らないが、合気道では正面打ち一教と坐技呼吸法が基本中の基本の技であり、この中には大事な技の秘密が沢山入っているはずである。それ故、これらの正面打ち一教と坐技呼吸法は極意技であると言えるだろし、誰もが身につけなくてはならないはずである。

さて、中々前進がなかった正面打ち一教が、最近少し前進した。何が前進させたかというと、簡潔に云えば“十字”である。もう一度原点に戻ったわけである。
技は只手を振りしまわしても、無暗に動いても上手くいかない。理に合った手足、体、そして技をつかわなければ上手くいかない。
これまで正面打ち一教で注意していたことは、例えば、手と足を陰陽につかう。腰を十字につかう。手を折らないでつかう。縦の入身で相手を抑える等であった。

前進した理由は、原点に戻ったことであるが、一つは、相手が打ってくる手とこちらの手を十字にすることである。入身で縦の十字で接し(写真 A)、次に横の十字(写真 B)で相手を制するのである。これを有川定輝先生から教わっていた事を思い出したのである。 

また二つ目は、相手と最初に接する箇所で相手をくっつけてしまうことが合気道の技の鉄則であることを再確認したのである。上記の写真Aでも写真Bでも相手にくっついて一体化しているのがわかる。

更に三つ目に、相手が打ってくる手と己の手が十字になるようにするのだが、只手を出すだけでは相手とくっついて一体化できない。くっつき、一体化するためには、阿吽の呼吸で入身しなければならないことが分かった。阿吽の呼吸によって、己が出した手の力が前と上に働くと同時に、下にも働き、己の体の重さが手の土台から下に働き、相手に己の体重が掛かるのである。これまで研究してきた、魄の土台ができたわけで、後はこの土台の上にある魂(念、心)で相手を導けばいいのである。

要は、相手に接する際に手を十字につかうことである。前にも書いたように、相手と触れる最初が肝心だったのである。手を相手の手と十字になるように遣うと、魄の土台ができ、その上に魂が働くので、相手を腕力の魄でなく、魂で導くことができるようになった次第と考える。これまでの十字の更なる十字である。