【第706回】 親指

相対稽古で若い頃は、何とか相手を投げよう、極めようと技を掛け合っていた。言ってみればていのいい勝負をしていたわけである。そこには理合いはない。力と勢いと負けじ魂が活躍している世界である。相手を投げたり、極めた方が良であり、上手ということになる。このような稽古は数十年続くことになる。
最近は理合いの稽古をするようになってきた。理合いとは、合気道の道理に合うことであり、道理とは宇宙の理、つまり宇宙の法則に則ることであり、合気道開祖の大先生の教えに従うことであると考える。
理合いの稽古をするというのは、先ずは相対の形稽古で宇宙の法則を見つけ、それを技に組み込んでいくことだろう。宇宙の法則の宇宙とは、時間空間を超越するという意味で、どの時代のどの地域の誰に対しても有効であるという事である。

最近、後ろ両手取りの稽古が多かったが気になる事がある。それらは私も若い頃は全然気にもしていない事なので、初心者が気にせず、注意しないのは当然だろうが、それは、

この二点を無視して稽古しても後ろ両手取りの稽古にはならないと考える。

その上で、更なる理合いの稽古が必要になる。法則に則った技づかいをすることである。宇宙の法則であるから、他の技(形)でも有効であるが、この法則は、不思議な事に、後ろ両手取りが一番分かりやすく、また、効き目があると思う。
その法則とは、「親指」づかいである。
相手が掴んでいる両手を前に向けて開いて下に落し、小指側を腰のあたりにつける。ここから足と一緒に、親指を支点として小指側を180度旋回するのである。この「親指を支点として支点を動かさずに、小指側を旋回する」が法則のはずである。何故、法則かというと、この法則に従えば、誰にでも効くようだし、誰がやっても効くからである。初心者でも高段者を制することができるのである。
後両手取りで、親指をこのようにつかうと相手は浮き上がり、こちらの体にひっついてきて、相手と一体化するのである。

親指を支点に小指側を上に旋回すると、体に気が満ち体は膨らみ、そして下に旋回すると腰腹が締まるようである。
また、親指を支点に小指側を上に旋回すると、鳥が羽を広げて飛ぶ気持ちになる。鳥の羽ばたきを見ると、人の親指に当たる羽の前部を支点として、人の小指側にあたる羽の後部を動かしているように見える。羽の前部の支点を先に動かしてしまえば、気も力も出ず飛べないだろう。

また、以前から書いているように、日本人の食事での箸も、親指を支点に小指側を動かすし、西洋料理のフォークも基本的には親指が支点になっていると思う。
更に、剣を振り上げるのも、親指を支点に小指側を動かす。

従って、この親指の法則は、武道だけでなく、日常生活においても、また鳥にも適用されるようなので、宇宙の法則となるわけだから、後両手取りではこのためにMUSTであると考える。