【第701回】 体幹

これまで“合気道の体をつくる”で、手先から足先まで研究してきたので、体のほぼ全部を研究したかと思ったが、どっこい一つ大事な体の部位が残っている。稽古でもあまり意識しないでつかっているので、重視していなかったが、ようやくその部位の重要さがわかった。この部位がしっかりしていなければ、手足もよく働いてくれず、技も上手く効かない。

その体の部位は“体幹”である。体幹は体の中心にあり、そこから手と足と首が出ている。従って、中心にある体幹がしっかりしていなければ、末端の手も足も上手く働けない事になるから、体幹をしっかりしなければならないのである。
体幹をしっかりするとは、折れたり、歪んだり、曲がったりせず、胸幅厚く、どっしりと、真っすぐで、面としてつかう。武道の名人、達人の体幹は正まさしくこれであるし、この体幹を見ればどれほどの名人、達人であるかがわかるから、体幹はその指標であるといえよう。

手と同じように、体幹は手と足と独立して働くことができるようにしなければならない。手や足に癒着していると、体は突っ張り、手足は十分に働けないし、大きな力も出せない。手のところで説明したように、手首、肘、肩を支点としてその支点の先だけが独立して動くようにするのである。つまり、体幹が手と足の支点になるわけだから、手足を動かしても、支点となる体幹は動かしてはならないことになるわけである。

不動でしっかりした体幹は気と力で満ちなければならない。そのためには、体幹に対照力を働かせなければならない。対照力は腹と胸の息づかい、つまり腹式呼吸と胸式呼吸の陰陽十字から生まれる。腹を締めると息が胸に上がり、そして胸が横に開く。胸を締めながら息を吐くと、その息は腹に下り、縦横十字に気が広がる。この息づかいによって、体幹は気で満ち続け、しっかりすることになる。この体幹の感覚と息づかいは剣の素振りが分かり易いだろう。

体幹を鍛えるのは、胸を張る、剣を振る、歩きながら腹式呼吸と胸式呼吸の十字の呼吸で気を満たしていくのもいいが、もう一つ正座がいい。体幹を鍛えようと思ったら、正座をなるべくするようにするといい。正座で腹式呼吸と胸式呼吸の十字の呼吸をして気を満たし、しっかりした体幹をつくっていくのである。座禅もいいようだが、椅子に座ってでは体幹を鍛えるのは難しいと思う。

後は道場での相対稽古で、体幹を意識してつくっていけばいい。体幹がしっかりすればするほど、手足が上手く働き、技が効いてくるようになるはずである。