【第70回】 感謝

合気道の稽古ができることは素晴らしいことである。何故ならば、稽古ができる為には、いろいろな条件が満たされていなければならないからである。まず、五体が十分に動くことである。もし病気だったり、怪我をしていれば、体が思うように動かないので稽古どころではない。人の体は筋肉、骨、内臓、血管、神経などなど多くのものから出来ているが、そのひとつでも機能しなくなれば体は思うように動かない。それが全部、完全に機能しているのは、考えてみると奇跡に近い。また肉体は永遠に動き続けることはできない。いつかは機能停止するわけだが、まだ動いていて稽古ができるのである。有難いことである。

次に、時間の余裕がなければ道場に行って稽古はできない。ますます忙しくなる世の中で、稽古のために残業もしないで社を後にするのはなかなか難しいだろう。もし出来るとしたら、それは幸せである。

また経済的な余裕もないと合気道の稽古はできないだろう。稽古事は結構お金がかかるものである。入会金、月謝、昇段、稽古衣、木刀や杖の他、付き合いのための交際費、書籍やビデオの購入などの研究開発費なども必要になる。この他にも家族や会社の理解などの条件が満たされていなければならない。

稽古ができるということは、ちょっと考えただけでもこれだけの条件が揃っていることであるが、人は稽古ができるうちは、それが当然だと思い、その有難さを考えもしないものである。そして、これらの条件が欠けて稽古ができなくなって初めて、それに気が付くものである。病気になって稽古ができなくなれば、健康の有難さがわかり、時間がとれなくて稽古に通えなくなれば、時間の有難さと貴重さが分かる。その時、これまで稽古をさせてくれた条件、健康、時間、お金等々に感謝することになる。しかし、そのときはもう再起不能かもしれない。元気で稽古しているうちに、稽古ができることと、そのための自分の健康、時間、恵まれた経済、まわりの理解と協力などに感謝をすれば、稽古にますます気合がはいるだろう。また、この感謝の気持ちを、合気道の目標であるよい世の中をつくることに、還元するとよいだろう。