【第697回】 愛を売る

最近は買い物や食事に行くのが嫌になってきた。勿論、買い物も食事も必要であるから行くが、気分がよくないことが多いので、行くのを控えたり、気分を害した店には二度と行かず、気分のいい店に行くようにしているということである。

レストランなどの食事店での所謂外食は少なくとも一日一回はしている。昼夜二回のこともあるが、一日二回の外食は食欲も出ないし、あまり好きではない。
以前は気の向くまま、手あたり次第に店に入って食べたり飲んだりしていたが、段々と行く店が絞られて来て、今では10軒ほどの店で代わる代わる昼食や夕食をとっている。しかし、これらの店の数もまた少しずつ減少している。

その店に行かなくなる理由は、一般的に云えばサービスの悪さや低下である。
このサービスの悪さは何処から来るかと言うと、飲食業のサービスの基本を知らないか忘れている事だと考える。この基本を忘れ、儲けに走り、手間と経費を掛けずに利益を上げようとしているのである。自分のために商売をやっていることになるわけである。客の事をあまり考えていないし、分からなくなっているようだ。
安ければお客が感謝し、お客が増えるだろうと料金は低く抑えるが、それがお客の最高のサービスだと思っているように思える。確かに料金が安ければ安いほどいいし、それが最重要に思っている人たちもいる。しかし、安い料金が最大のサービスではないはずである。安い料金の場合はサービスも低下するのは仕方がないが、料金が高ければそれなりのサービスは高くなければならない。サービスが良ければ、料金がそれなりに高くても後悔はしないだろう。
従って、問題は料金(儲け)とサービスのバランスがどんどん儲けの方に崩れていくことである。

最大のサービスとは、食べたお客が満足して帰り、また来ようと思わせる“こと”であろう。その“こと”は飲食業という商売の基本理念がなくてはならないはずであう。
その基本理念とは、“愛を売り込む”事である。折角来てくれたお客に出来る限りのことをして満足して貰う愛である。最良の具材をつかい、最良の料理をし、それを最良の値段で提供することである。また、わざわざ来店してくれたことに感謝し「いらっしゃいませ」、料理を出す時は「美味しく召し上がれ」とか「楽しんでください」とか、帰る時には「ありがとうございました」とか、心の中で「これで元気でまた頑張ってください、明日も楽しくお過ごしください」と送り出すということである。相手がこの店に来て食事をしてよかったと思うようにすること、愛である。

これが“愛を売り込む”ということである。先ずは“愛を売り込む”が商売である。儲けよう、これは儲かるから商売をやろう、こうやった方が儲かるというのは、日本本来の商売ではないはずであるが、今は、この儲け第一の商売が普及氾濫しているように見えて残念である。

しかし残念ながら、この儲け第一の商売は飲食店だけではなく、デパートやスーパー、コンビニ等‥の販売店にも広がっている。物を売るにも“愛を売り込む”ことを知らないか忘れているか軽視しているのである。物を買ってくれたら、これで楽しむことができますよ、よかったですねと思って見送りするようになればいい。
また、ビジネスの世界でも儲け第一主義がどんどん進行しているように見えて寂しい。ビジネスでもやはり愛と誠を売り込まなければならないと思う。それがなければそのビジネスは長続きしないはずである。何故そう言いかと言うと、合気道の世界がそうであるからである。倒すこと(一般では儲けること)を目的に技をつかうと、その稽古は長く続かないし、成果も上がらず、引いては体を壊す(一般では廃業)ことになっているからである。

合気道の教えは、「日本では「売る」方が先であり、日本のすべて「誠」を売り込む、「愛」を売り込むのであります。武道におきましても、まず愛を売り込み、人の心を呼び出すのであります。」(合気神髄P.47)となっているのである。