【第696回】 体を張り・緩めるスイッチは息づかい

柔軟運動を続けている。開脚で股関節を柔軟にしたりする腰腹の運動から、手の指一本一本、手首、肘、肩、首、足首から膝等の関節を柔軟にすべく柔軟運動をしている。息に合わせてやって来たせいで大分柔軟になったし、また、不思議な事に強靱になってきた。柔軟になることは強靭になることで、強靭になるためには柔軟にしなければならないということがわかった。

そして最近分かったことがある。それは体を張り・緩めることが自在にできること、そのためのスイッチがあること、そしてそのスイッチは息づかいであることである。

それが分かり易い、開脚での柔軟運動で説明する。
床に両足を開いてお腹や胸をつけるようにして開脚する運動である。お腹を正面の床につける運動の他、開いた左と右の脚につける運動がある。

この運動は誰でもやっているが、大体の人は、息を吐きながら腹や頭を床に着けようと頑張っている。体が軟らかい若いうちは出来るだろうが、年を取ってきて体が固くなってくると、息を吐きながらでは腹は床につかなくなってくる。また、息を吐きながらやると腰に負担が掛かるから、精々腰を痛めないようにすることである。

どうすればいいのかは以前から書いているように、イクムスビの呼吸や阿吽の呼吸でやることである。取り分け、クーやアーで息を吸いながら、腹を床につけるようにすればいいのである。

さて、この息づかいを続けて行くと、この息づかいの延長上に新たな秘密が隠されていることが分かる。人の体には多くの秘密が潜んでいるのである。
合気道はしっかり稽古を続けていればそれを見つけることができるように出来ているようだ。
柔軟運動は体の関節や筋、筋肉を柔軟にする運動であるが、柔軟にするためには、その前に強固にしなければならない。そしてその強固から柔軟へのスイッチが息づかいなのである。
開脚の柔軟運動で説明する。先述したように、開脚の柔軟運動には3つの運動がある。腹と頭を腹の前に落すものと、左右の脚につけるものである。

先ずは、腹と頭を腹の前に落す運動で説明する。

  1. まず、腹から息をちょっと吐いて、腹と頭を下に下ろす。腹と股関節を固めるスイッチが働いたのである。
  2. 腹を締めたまま、腹を支点として腹の後ろにある腰に阿吽のアーで息を入れると股関節が緩み、腹が床に自然と下りていく。股関節の留め具がはずれ股関節が柔軟になるのである。この息を入れる(吸う)ことによって、股関節を緩めるスイッチが働いたのである。但し、只息を吸ってもこのスイッチは働かない。ある程度の息づかいを稽古しておかないと難しいだろう。
  3. 伸びきったところで息を吐き、更に腹と頭を下に落すと、股関節は更に開き、両足が外側に更に開く。
次に、左(右)の脚につける運動で説明する。
  1. 腹から息をちょっと吐いて、腹と頭を左脚に下ろす。腹と股関節を固めるスイッチが働いたのである。この状態では、腹の中心は左足の中央にはのらない。
  2. 左足のところにある腹を締めたまま、腹を支点として腹の後ろにある腰に阿吽のアーで息を入れると股関節が緩み、腹の中心が左足の中心線上にのるように動く。股関節の留め具がはずれ股関節が柔軟になったのである。息を入れたことが股関節を緩めるスイッチに働いたのである。前述したように、只息を吸ってもこのスイッチは働かない。ある程度の息づかいを稽古しておかないと難しいだろう。
  3. 伸びきったところで息を吐き、更に腹と頭を下に落すと、足が更に延びる。
体を張ったり、緩めるスイッチがある事が、開脚柔軟運動で分かった。これを今度は技に応用できるし、応用しなければならないと考える。技をつかうために、体を時に応じ、臨機応変に、時に仁王様のように、また、鉄棒の様に張りつめた体にしなければならないし、また時に、相手を包み込む真綿のように柔軟にならなければならないからである。これまでは、イクムスビの呼吸や阿吽の呼吸の息づかいで技と体をつかうと書いてきたが、一つの技でも、この息づかいでのスイッチの切り替え々々で、適宜、必要に応じて体を張ったり、緩めていけばいいだろうと考える。