【第689回】 基礎作り

合気道に入門して10年もすると一つの壁にぶつかるはずである。
入門したての頃は、受け身を覚えたり、形稽古の形を覚えるのに一生懸命に稽古に励み、それがある程度身に着くと、今度は相対で己の身につけたモノで相手に技を掛け、何とか相手に負けないよう、また少しでも上手く相手を倒そう極めようと形稽古に励むことになる。
ここまでは自分が進歩、上達していることが明らかに感じられるから、稽古に張り合いがあり、稽古が楽しいものである。

しかし10年もしてくると、いままでの進歩、上達が感じられないようになってくる。唯一の張り合いは、相対稽古での相手を投げたり、抑えて制することである。今日は上手く技を極めたとか、相手を投げたとかで満足することになる。
だが、その内に、ちょっと頑張られたり、力の強い相手には、自分の技が全然効かない事に気がつくはずである。
ここから本当の合気道の稽古が始まることになると思う。

これからどのような稽古をすればいいかということになる。
継続の稽古と新規の稽古をしなければならないと考える。
継続の稽古は、これまで通りの相対での形稽古である。この形稽古で技を練っていくのである。これまでの形稽古では、形で相手を倒そう、極めようとしていたのである。形で相手は倒れてくれないし、極まらないものである。相手が倒れてくれ、極まるのは技である。宇宙の営みを形にし、法則に合した技で相手を制しなければならないのである。形稽古の形に技を取り込んでいくのである。

次に新規の稽古を取り入れていくことである。
一つは、己の得意技を創り、日々深めていくことである。この得意技なら誰とやっても上手くできるようになるまで稽古を積むのである。私の場合は四方投げであった。他の技よりも時間と労力を割いて稽古を続けていた。因みに、今は呼吸法である。
二つ目は、合気道の基本と言われる呼吸法と正面打ち一教を身につけることである。
呼吸法は、片手取り呼吸法から諸手取呼吸法、そして坐技呼吸法である。これによって呼吸力を養成するのである。呼吸力はあればあるほどいいし、技には必要であるから、呼吸法は修業の最後まで続けなければならないと考えている。また、技の程度は、呼吸法の程度でといわれるから、技のレベルアップのためにも、呼吸法を錬磨しなければならないだろう。

次に正面打ち一教である。一教は合気道の入門者が最初に教わる形であるが、最も難しい形であるから、一教は合気道の極意技であると考えている。一教、とりわけ、正面打ち一教は最も奥深くて難しいと考えている。正面打ち一教には、手、足、体の陰陽十字、イクムスビや阿吽の呼吸、天と地を気と息で結ぶ等のマクロの法則と、腹と手・足の母指球を結ぶ、親指を支点に小指側を左右と上下に返す等のミクロの法則がぎっしり詰まっているからである。

得意技、そして呼吸法と一教が出来てくれば、合気道の技の基本が出来てきたことになる。この基本を基にして、不得意技をレベルアップし、他の技も得意技のレベルまでレベルアップするようにしていけばいい。進歩、上達ということになる。進歩、上達があれば稽古に張り合いが出てくることになるから、更に稽古を楽しく続けることができるようになるはずである。
まずは、基礎作りをしよう。