【第688回】 基本準備運動が大事

合気道を始めて50有余年になるので、先輩方はどんどん少なくなってきて、後輩だらけになってきた。過っては先輩達に指導を受け、悪い所は注意され、只、先輩たちに少しでも近づこうと、先輩たちの後を追っていればよかったが、今は追いかける先輩たちがいなくなってしまった。寂しいかぎりである。

自分が先輩になると、過っての先輩たちの苦労や気持ちが分かるようになってくる。この素晴らしい合気道を後進に引き継いでもらい、後世に残すべく、修業を頑張らなければならないということである。そのため、後輩の悪いことは注意し直し、残すべく合気道の技や思想はよりよいものに洗練していかなければならない。先輩たちと次世代の後輩の間に断絶や間違ったことが
伝承されないように、細心の注意を払って修業しなければならないという事である。

さて、自分自身もまともに出来ているわけではないが、後輩達の稽古を見ていて気になる事があるので書くことにする。
それは合気道の基本の動きや形ができていないことであり、その重要性にも気がついていない事である。例えば、手が折れ曲がってつかわれている。指先に力が入っていない。手先と腹が結んでいない。手足をバラバラにつかっている。手先が十字に返っていない等々である。とりわけ技の稽古に入る前の準備運動を見ていると、体や手先、足先が緩み、死んでいる。

相対稽古で相手を投げたり、抑えるのは一生懸命にやるのだが、基本的な体づかいや動きは疎かになっているので、ちょっと頑張られると動けなくなってしまう。
その原因と対策を考えると、一つの結論は、基本準備運動を、もう一度真剣にやり直すことだと思う。私の入門した頃は、今の様な準備体操はやっておらず、代わりにこれらの基本準備運動をやるか呼吸法をやっていた。例えば、

― 一教運動 (立ってやると坐ってやる)

― 呼吸転換法
― 転換運動 (単独)
― 転換運動 (相対)
― 入身転換
― 舟こぎ運動
― 後ろ両手取り上げ 等々
これらが、まともに出来なければ、相対での技稽古でもできるはずがない。
例えば、上の「後ろ両手取り上げ」で、十字に手が変えるようにならなければ、技にならないし、相手の手が離れて、自分の首を締めさせてしまう事になる。ここでは手先を置く位置、腰と体の表をつかっての手の平の返し、相手の力が抜け、己の背中に密着する感じを学ぶことが大切なのである。

更に有川定輝先生が考案し、やられていた基本準備運動もやるといい。しっかりした手が出来、手が刀として遣えるようになる。

― 正面打ちと横面打ちの手の素振り

― 正面切り下げ・切り上げ、左横面切り下げ・切り上げ、右横面切り下げ・切り上げ、胴きり右・左切り、突きと“米の字と突き”
これらの基本準備運動の稽古が、単独や相対でできれば、今度は技に活用できるはずであるから、もう一度、基本準備運動の稽古をし、合気道の基本の基本の動きや体づくりと体づかいをするのがいいと考える。
尚、基本準備運動の重要性とそのやり方は、『合気技法』(光和堂)に詳しく書いてある。

参考文献  『合気技法』(植芝盛平監修 植芝吉祥丸著 光和堂)