【第682回】 三つの支点の移動と合体

相対稽古で、技をつかう際の手には己の体重を懸けなければ上手くいかないはずである。手先と腰腹(後は腹と略称)を結び、腹からの力で技をつかうのである。腹からの力とは、体重と地からのその抗力である。複雑になるので、これを体重(体の重さ)とする。諸手取呼吸法はこの己の体重を手に懸けなければ上手くいかない。

体重を手先に懸けるためには、手先だけではできない。腹と足に働いて貰わなければならない。手先と腹を結び、同じ側の足と腹に体重を落とすのである。
しかし、諸手取り等で持たせた手を下に落す場合は、持たせた手に全体重が懸かり、相手を難なく地に落せるが、持たせた処から技をつかおうとしても不十分な力しか出ないものである。不十分な力とは、体重の全部ではなく一部しか出せないという事である。

十分な力を出すためには、まず腹を十字に返してつかうことである。持たせた手を動かさずに、腹を己の足先の方向に対して十字にするのである。腹が十字になるためには、重心が股関節の手の側の末端に移動しなければならない。
これで持たせた手と己の腹がしっかり繋がり、腹と足が陰陽に動けば大きな力が出るのである。

ここまでは、諸手取呼吸法などで手を掴ませた時の、手先に体重を懸ける法であるが、正面打ち一教のような、相手が打ってくる際の体重の掛け方が別にある。己の体重を己の手先と相手に掛ける方法である。
それは踵から爪先への体重移動によって、己の手先に体重が懸かるようにし、その体重を相手に掛けるのである。このためには入身で相手の間合いに入らなければならないし、入身のためには、親指を支点として手の平を外側に返さなければ出来ない事は、以前に書いた通りである。

手を持たせた場合も、打たせた場合も、己の体重を己の手先に懸け、そしてそれを相手にも懸けるのは、己の体重移動ということになる。移動であるから、支点がある。
体重移動のためには三つの支点があり、その三つの支点の移動があるわけである。
一つは腹、二つ目は足、三つ目は肩である。
この三支点は、それぞれ、体重が中央または陰の側から陽になる末端に移動し、そしてこの三支点が一軸(一直線上)に重なり合い合体するを陰陽で繰り返すのである。これは片手取りなどで手を掴ませた場合も、また正面打ちなどで打たせた場合も同じである。

これまで腹と足の支点の重要性は書いてきたが、これに「肩」が加わったわけである。腹や足と同様、肩を支点としてつかわなければならないわけである。無暗に肩をねじったり、動かしたり、また、上手く動かさないと、体重が効率的に使えず、いい技がつかえないのである。

これが真実かどうかは、諸手取呼吸法の他、四股踏みや一教で試してみるといいだろう。肩がつかえても、上手く行かないかも知れないが、それまでよりもましになるはずである。