【第681回】 手の親指の神秘的な働き

合気道は技を錬磨しながら精進していく武道であるが、この錬磨している技がなかなか思うようにつかえない。
技は宇宙の営みを形にしたものであり、宇宙の法則に合しているといわれる。技の錬磨とは、技の形を通して技を練っているわけで、これを技の形稽古といい、われわれはこれをやっているわけである。

しかし、技はつくるものではないと思う。技は宇宙が創造し営みはじめた138億年以前からあるものであり、その宇宙の営みの技を見つけ、そして身につけなければならないと思うからである。
また、大先生は人類の体を、「人は言霊の造りなす擬体身魂なり」と云われているから、宇宙の擬似体であるといっていいだろう。宇宙が宇宙楽園完成の為に人が働けるように創った体であり、そのために働けるような体であるということだろう。
それ故に、宇宙の意志、つまり宇宙の法則に合した体のつかい方をすれば、体にいいし、いい技もつかえることになるはずだと考える。

さて、何故このような事を考えるようになったかというと、これまで苦労していた一教が突然一段進化したように思えたことにある。半世紀以上の長きにわたって、上手く行かずに悩んでいた正面打ち一教の問題が解決されたのである。相手を弾くことも弾き飛ばされることも、力んで抑える事も、抑えられることもなく、相手と一つになり、相手を十分に導くことができるようになったのである。(勿論、まだまだ完全ではない)
これで分かった事は、相手を自由に導けた技は、すでに138億年以上前から存在しているということ、そしてその技は我々がそれに気づくのを待っていてくれていた事などである。

その一教で分かった技は具体的に何かというと、手の親指の働きである。手の親指の働きの重要性にやっと気がついたわけである。
これまで正面打ち一教で、相手の思い切り打ち下ろしてくる手を受けて制することが十分できなかったのだが、親指を支点にして小指側を円く返し乍ら上げていくと、相手の力を削ぎながら、こちらの体重を相手の頭上から懸けることが出来、相手を自由に導くことが出来るようになったのである。
要は親指のつかい方である。親指を支点として動かさず、他の指を円く返すのである。 

更に、この親指のつかう方を入身転換でやると、上手く転換できるし、また片手取りや諸手取、そして坐技の呼吸法でもこれでやると上手く行く。

一教がこの親指のつかい方で上手くいくのは、一つはこの親指のつかい方によって、入身ができるようになり、相手の懐に入れることが出来るからである。縦の入身である。二つ目は、親指を支点に返した手で、今度は相手の手を切り下ろすわけだが、下ろす際は親指を支点として小指側を円く返しながら切り下す。この際、杖を円く上げる場合も同じであるが、腰からの気と力で手をつかわなければならないことは云うまでもないだろう。この親指のつかい方をすると、腰腹の力が手先に集まり、手先に大きな力が集まるのである。そして力で抑え付けなくとも、相手と一体化するので、心(気持ち)で相手を導くことができるようになるのである。

勿論、片手取り呼吸法や四方投げなどの手をつかう場合も、この親指のつかい方をしなければならない。親指を支点(体)とし、小指側を用として手の平を返し、十字の円をつくって技を掛けるのである。

恐らく、この親指のつかう方を上手くできなければ、正面打ち一教は上手く出来ないように思うし、他の入身転換、呼吸法、四方投げはもちろん、すべての技が上手くいかないのではないかと思う。

親指の神秘的で強力な働きは分かったわけであるが、他の指(人差し指、中指、薬指、小指)にも神秘的な働きがあるはずだろうから、今後、研究しなければならないと考えている。