【第679回】 不満を見出す

魂の学びの合気道になるように稽古をしているが、なかなか難しく、そこに行き着けることができるのか自信はない。しかし、そこに向かって少しづつではあるが近づいていることは確かである。それまで腕力や若さで技を掛けていたが、まず、腕力など体の部分的な力ではなく、腰腹の力をつかうようになったし、腰腹で手をつかい技を掛けるようになった。また、宇宙の法則に従った陰陽十字に体と技をつかうようになった。更に、息で体をつかい、技を掛けるようになった。そして今は、相手自ら倒れていく技づかいと心のつかい方を研究している。

これを主に坐技呼吸法と片手取り呼吸法で研究している。受けの相手が自分から浮き上がって無重力となり、こちらと一体化するので、後は心の思うままにできるのである。
これが出来るようになったもとは次の大先生の教えである。
「相手が引こうとしたときには、まず相手をして、引こうとする心を起こさしめて引こうとするように仕向ける。術の稽古ができてくると、相手よりも、先にその不足を満足させるように、こちらから相手の不満の場所を見出して、術をかける。この不満を見出すのが合気の道でもある。」

この教えには二つの重要な教えが隠れていると考える。
一つは、これは合気道の技づかいの基本であろうということ。つまり、相手に引かせろということであり、相手が引かないと技にならないということである。
二つ目は、引こうとする心を起こさしめるわけである。つまり、体をどうこうするのではなく、心に働きかけるわけである。そのためにはこちらも心で働きかけなければならないはずである。心を働かせるから、相手の不満を見出すことができることになるのだろう。因みに、相手の不満とは、例えば、相手がこちらの手を押さえつけたいとか、引いたり押したい等であろう。

坐技呼吸法と片手取り呼吸法でも、相手に持たせた手を引かせると、相手は自ら浮き上がってくる。しかし、相手にこちらの手を引かせるのは容易ではないだろう。引かせるには、やるべき事があるからである。例えば、手先をしっかり伸ばす。手先を先に伸ばして力を出し、しかも手首から上(肩方向)は力を腰腹に流す。息はまず吐いて相手と結び、今度は吸いながら手先と腰腹に力を流す。また、片手取り呼吸法や諸手取呼吸法の場合は、手が出ている方の体軸が一軸にならなければならない。このためには腹が膝上の位置まで移動し、股関節を下に落さなくてはならない。ここで初めて持たせている手に己の体重が掛かり、腰腹と相手が結び、相手は突っ張り、浮き上がってくるのである。

しかし、これは容易ではない。どうしてもそれまでの腕力でやってしまうことから抜け出せないのである。そこでこの腰腹と相手が結び、相手は突っ張り、浮き上がってくる感覚を味わうために次のような稽古をするといいだろう。片手取り呼吸法の片手取りである。相手にこちらの手を片手で引っ張って貰うのである。そしてその力を腰腹で受けるのである。肩を貫かなければ、その力を肩で感じる事になるので、腰腹では感じられない。引っ張られた力は腰腹で感じなければならない。引っ張られている力を腰腹と結べば、相手は、引っ張れば引っ張るほど突っ張り、こちらの持たせている手と一本になるから、こちらの腰腹を動かせば相手を自由に動かすことができるようになる。腰を動かし相手を動かすのは、心であるから、心で相手を動かすことになるわけである。

これは誰でもできるはずである。しかしこれは武道本来の稽古ではない。自主稽古で、仲間内でやることである。
やはり、本来の稽古をしなければならない。相手にお願いして引っ張ってもらうのではなく。相手が引っ張らざるを得なくすることである。