【第676回】 一軸と股関節

技を掛ける際、大きな力を手先に集めて掛けなければならないが、この大きな力を先ずは体重と考えていいだろう。先ずはというのは、この後更に大きな力、例えば、宇宙の力等を使うことになるはずだからである。
手先に己の体重がのるようにして、相手と一体となった状態で、心・気持ちでこの一体となっている体を導くのである。

手先に己の体重を掛けるための一つの条件として、体を体軸が一本となる一軸にしなければならない。一軸になることによって、体重が一軸になった足に掛かり、そして軸が他方の足に移動するに伴って、その体重が他方の足に移動し、更なる軸と体重の移動で技が極まるからである。

この為には同じ側の手と足が共に陰陽(待機、出る)で働かなければならないが、ナンバの歩き方、イクムスビや阿吽の息づかい、手先と腰腹を結んで切らない、腰腹と足との十字や手の十字などが重要である。

己の体重が十分に手と足にのり、技が効くためには、体重が一軸にある片方の足に十分にのらなければならない。初心者は体が一軸にならずに三軸になっているので、体重が三つに分散するので、弱くなった力を手捌きで補うことになるわけである。

体重を片方の足に十分のせるとは、十分時間を掛けるということにもなる。体重の滞留時間が長いということである。十分な時間と言っても、一秒とか一秒の何分かの一である。
十分時間を掛けなければ、力が出ないし、技が効かないことになるわけだが、十分に時間が掛けられない最大の原因は股関節にあるだろう。股関節が十分に柔軟になっていないために、腰腹が十字に返らないからなのである。

腰腹が十字に返らないとどうなるかというと、技が効かないどころか、年を取ってくると歩けなくなる危険性があるのである。
高齢になるに従い、歩行が困難になっていくとしたら、その最大の原因が、股関節の硬化であると見る。
股関節は右左に移動し、そして下に沈み、そして腰腹の十字の働きを助ける。年を取るとこの機能が低下し、三軸歩行となり、そして体重を十分掛けて足を地に着けることが出来なくなり、チョコチョコ歩きになってしまうわけである。(写真)

上の左の写真には、高齢者と若者の歩く姿があるが、若者は体重を片方の足に十分掛けているのに対し、前方を歩く高齢者は、股関節が大分硬化して三軸で歩いている。真中の写真の高齢者は、股関節が固まり、機能しなくなり、三軸の真中の軸を中心に足をやじろべえ(写真)のように交互に動かして歩を進めている。右の写真は、三軸と四軸(左の杖をついている方)で歩いている高齢者です。

やじろべえ

高齢者になっても一軸で歩けるよう、稽古でも一軸になるように体をつかっていくのがいいと考えている。