【第673回】 足は腰腹と結んで縦につかう

これまで手は腰腹と結んで、その結びが切れないように、腰腹で手をつかって技を掛けなければならないと書いてきた。
足の同じである。足も腰腹と結び、その結びが切れないことであり、腹は用で腰を体で支点に動かすところである。この腰腹をここでは一般的につかわれる腹ということにする。

腹で足と手をつかうわけであるが、動かすこの身体の順序は、先ず腹、次に足、そして手となる。つまり、腹がしっかり動き、そして足がうまく動かなければ手は上手く機能しなくなるわけである。
これまで足も腹と結び、右左を規則的に、そして撞木の陰陽十字でつかわなければならないと書いてきた。確かにこれは必須であるが、足づかいはこれだけではまだ不完全であることが分かってきた。

相手に手を取らせたり、胸や肩を取らせた場合は、陰陽十字で上手くいく。呼吸法などはその典型である。
しかし、正面打ちの場合、この陰陽十字だけでは上手く行かないはずである。陰陽十字は、大胆に云えば、横の攻めに対しては力を発揮するが、打ち込まれる縦の攻めには弱いように思う。例えば、正面打ち一教である。片手取りや諸手取の呼吸法や四方投げは、この陰陽十字で上手く技が掛かるが、正面打ち一教は上手く行かない。
前から書いているように、この正面打ち一教は、誰でも最初に教わる技であるが、最も難しい技であるので、合気道の極意技であると考えている。それ故、この正面打ち一教には、合気道の技づかいに大切な秘術が潜んでいると思っている。

実は、本部で教えておられた有川定輝は晩年、われわれに正面打ち一教の秘術を教えて下さっていたことが、つい最近になってようやく解った。有川先生は詳しい技の説明などはされなかったが、ある特別講習会で正面打ち一教を詳しく、懇切丁寧にご説明と技を示してくださっていたのである。2時間の講習会の三分の二にわたり、われわれが稽古をすることもほとんどなしに、ほとんどお一人で正面打ち一教とそれに関する応用技を説明演武されていたのである。ここで正面打ち一教が如何に難しく、大事なのかを我々に教えられ、そして正面打ち一教が上手く掛かるための秘術を伝えられようとされたと思われるのである。(写真)

正面打ち一教の秘術である。
縦の正面打ちに対しては、縦に身体をつかうということである。手は己の正中線上を上に上げて相手の頭上に切り下ろし体重を掛ける。
足は、踵から爪先への体重移動である。
手をこのようにつかうためには、足のつかい方が大事なのである。足が上手くつかわれなければ手がうまく働かないからである。

足はまず踵から着地する。(写真1枚目)これによって身体そして手が上に伸びる。体重が踵から爪先に移動すると、更に手が伸びて相手の頭上に体重がのる。(写真2枚目)。
踵を着くことによって、体が伸びるが、入身して相手に接近することができるのである。合気道の技は入身と転換が基本であるから、正面打ちで打ちこんでくる相手の懐に身を入れるのは容易ではないが、このように踵を着いて進むことによって入身することができるわけである。更に気で相手と結び、体で入身すればなおいい。後は陰陽十字の横の体と技づかいで収めればいい。(写真3・4枚目)

踵で着地が難しいのは、足を腹と結ばずに、腹ではなく足で動かしているからでる。足を先に動かしてしまうと、大体は踵ではなく、爪先や母指球などに着地するので、体も手も伸びず、入身もできず、相手と結ぶ事も導くことも難しくなるはずである。
踵が地に着くのは、足と腹を結んで、腹で足をつかえば自然に足の末端の踵が地に着くのが理に合っている。腹を中心に腹と結んでいれば、手同様に足も腹を中心の円になり、足の末端の踵が地に着くからである。踵が地に着かなければ、足を動かしていることになる。
歩き方も踵で着地するように研究しなければならない。西洋人の歩き方、お能の歩の進め方などを研究するといいだろう。