【第67回】 体の表を鍛える

人は本能的に、そして習慣的に、体の裏を使ってしまう。裏を使うと繊細な仕事が出来るからかもしれない。体の表とは背中の側であり、裏は胸やお腹の側である。日常生活では裏の力を使っても、あまり不便も感じず、害もないが、武道となるとこれが大きな問題となる。何故ならば、武道では強い、質のいい力が必要になるからである。

武道で使う力は、体の表から出る力でなければならないが、日常では通常、裏からの力を使っているので、これを180度変えなければならないことになる。これは容易ではない。よほど意識して変えなければできるものではない。

合気道の形には、体の表を鍛えるために適したものがある。故有川師範などは、"遊びの形"とも言われていたように、武術としてはあまり実用的ではないようであるが、体の表を鍛えるには最高のものである。
それは、「後両手取」である。例えば、
〇 後両手取一教〜三教
〇 後両手取入身投げ
〇 後両手取呼吸投げ
〇 後両手取小手返し
〇 後両手取腰投げ
従って、後両手取の形は、体の表を鍛えるものとして意識して稽古しなければ、稽古の意味が半減するといえる。

この他、「後片手取首絞め」からの呼吸投げ、三教、腰投げなども体の表を鍛えるのにいい。逆にいうと、体の表を使わないと出来ない形である。

体の表の力を出す体をつくるにあたって大事なことは、表の力は裏の力と全然質が違うということを認識、実感することである。後から持つ方は裏の力で持つことになるので、こちらが裏の力を使えば同質の力ということになり、すると争いとなって、強い方が勝る。裏の力を表で制すれば質とパワーが違いので、相当の力の差があっても制することができるはずである。これは武道の知恵ということができるだろう。