【第661回】 手と腹を気でしっかり結ぶ

合気道の技を遣うには、基本的なやるべき事がある。基本的なやるべきこととは、それをやらなければ決していい技を遣う事ができない事である。例えば、陰陽や十字がその典型的な事であるが、更に基本的なものとして、手と腰腹が結び、腰腹で手をつかわなければならない事がある。
腰腹で手をつかうことに関しては、これまで度々書いているが、実はこれでは不十分で、更なる先があることが判明したのである。

呼吸法でも一教でも、手と腰腹を結んで、腰腹で手を遣っていけば、技になることは間違いない。しかし、力の強い相手に力一杯持たれたりすると、時として、手が折れて技が切れてしまうことがあるものだ。
その最大の原因は、手先と腰腹が十分にしっかり結んでいないことなのである。

前にも書いているが、しっかりした手先をつくるには、息で手先にイーと吐きながら、一寸力を入れ、クーで思いっきり息を吸えば、しっかりした手先ができるし、そしてしっかりした腰腹もできる。そのしっかりした手先としっかりした腰腹を結んで、腰腹で手を遣うわけだが、問題は、しっかりした手としっかりした腰腹をしっかりと結んでいないという事なのである。つまり、手と腰腹が十分にしっかりと結んでいないわけである。

手先と腰腹をしっかり結んで、技につかうためにはどうすればいいのか。
手先をしっかりするためにどうするかは、「第655回 手先で呼吸」で書いたが、今回は、この間の稽古で会得したことを基にして、これを更に進めて書いてみたいと思う。

まず、これまでと違うのは、これまでの息で体と技をつかうのを、気で息と体と技を遣うという事である。
片手取り呼吸法等で相手に手を取らせる場合、これまでの吐く息のイーで取らせ、クーと息を引きながら相手を導いてきたわけであるが、今度は、気を出して、気で相手に手を掴まさせ、そして次に手首を支点として手先から気を出しながら手先に力を集中し、同時に手首から腕に気と力を入れる。腕に気と力が入ると、気が腕から肩、胸を通って腹に集まるのが感じられる。手先から腹まで気が通ったわけである。これでようやく、気と気の流れを感じられることになったわけである。
因みに、手先同様、足先も手と同じ気のつかい方をしなければならないだろう。足首を支点にして、足先に気と力を出し、ももに気と力を入れると、太腿、腹に気が流れ、集まるのである。これを、技をつかう際は、手と一緒に手足同時にやるのである。手先と足先の気が腹に流れ、そしてその気と力が腹から手先と足先に流れるわけである。

これを息でやろうとしても、手先から腹をしっかり結ぶことは難しい。
しかしながら、気を遣うためには、やはりその前段階のイクムスビの息づかいで、技と体をつかう稽古をしなければならないだろう。
しかし、これまでのような息ではなく、気に切り替えてやるのはちょっと大変だ。初めは意識して、ゆっくりとやるほかないだろう。

気が通るから手先と腹がしっかり結び、折れ曲がることが無くなることになる。気によって手先も腕も張り、そのエネルギーが感じられる。気は力の大王と云われ、体の崩れを防ぐのである。
また、気は自由で、息を吐いても吸っても、気は自由に動くことができるのである。息は気によって自由に変化するのである。気が出ている場、何処で息を吐こうが吸おうが関係なく、体も技も自由に遣えるようである。

これまで息で体と技を遣って来たわけであるが、今度は気が先行して、気で息と体と技をつかうことになるわけである。
しかし、これが合気道の難しさであり、面白さである。これまでと違ったやり方をする、時としては正反対のことをやらなければならなくなるのである。
しかし、今回の「手と腹を気でしっかり結ぶ」ことによって、気というものが身近になったような気がする。