【第660回】 剣の動きを合気道の技と体の動きに

「上達への秘訣 第656回 合気道の剣」で、二代目吉祥丸道主は、「合気道の動きは剣の理合であるともいわれているほど、その動きは剣理に則している。」「剣の道に経験のある人が合気道の動きを見ると、必ず剣の動きと同一である、と言われる。なるほど、合気道のどの技を取り上げてみても、剣の理法との一致点を見出すことができる。」、そして更に「合気道の体術ができれば、剣術もできねばならず、杖術も薙刀もそれに応じて、自在に使いこなすことができねばならない。」と『合気道技法』に言われていると書いた。

従って己の合気道の技と体の動きを剣の動きと一致させなければならないし、剣も合気道の理合いでつかえなければならないことになる。
本来は、それを合気道の相対での形稽古の中で、手を剣に見立て、相手の打ってくる手を剣と思い、己の手も剣としてつかっての剣理と合気道の理合いで技と体をつかって、それを身につけていくわけだが、中々難しいだろう。
そこで合気道の体の動きは剣の動きと一致していることがわかり、そしてそれを身につけるためには、どのような稽古があるのか書いてみたいと思う。

  1. 先ずは、先述のように、相手の打ってくる手を剣と思い、己の手も剣と思って、技を練っていく稽古である。打つ方も、己の手を切れ味のいい刀と思い、そしてしっかり切っていかなければならない。受ける方(技を掛ける側)も己の手を刀と思い、折れ曲がらないよう、刃筋が通るように手をつかうのである。勿論、合気道の理合いで、その刀をつかわなければならない。例えば、刀(手)と腹を結び、腹で刀を操作するとか、手足を左右陰陽でつかうとか、息に合わせてつかうことなどである。
  2. 次に、打ってくる相手に木刀を持たせて打たせ、こちらは素手で技をつかうのである。これは太刀取りの試験にあるものである。
    勿論、1がしっかり出来なければ、理合いの動きは出来ないはずである。1が基本であるから、まずは1をしっかりやることが大事である。
    打たせた剣を捌くわけだから、捌く側の己も剣が振れなければならない。自分でも、剣を十分振れるようにしなければならない。
  3. お互いに剣を持ってやる:相手が正面打ち、横面打ちなどで打ってくる剣を、こちらも剣で、合気道の基本技の一教、二教、三教、四教、入身投げ、四方投げ、小手返し等で捌いていくのである。剣どうしをバチバチ打ち合わせるのではない。これを合気の理合いで上手く出来るようになれば、「剣の道に経験のある人が見て、剣の動きと同一である」、と見てくれるのだろう。
    しかし、そのレベルまでいくのはそう簡単ではないように思う。そこで、更に次のような稽古をするといいと思う。
  4. 一人稽古である。心で相手に剣で打たせ、己の素手を剣として、1〜4教、入身投げ、四方投げ等の技をつかうのである。
    素手を剣としてつかうわけであるが、左右の手で剣を握るようにしてつかうのもいいが、握らずに左、右独立してつかうと使いやすい。左右の手が陰陽でつかえるし、足とも連動してつかえるからである。
    一般的に剣は右手を上、左手を下に握り、これを変えずに左右を切るわけだが、これはアンバランスで体を使うことになる。合気の理合いにより、これを避けるために、両手で握らずに左右独立してつかったのであるが、もう一つこのアンバランスを避ける方法がある。それは剣の柄を握っている上にある右手と下にある左手を、随時、上下持ち変えるのである。これは古武術などにある刀法である。こうすれば左右の手と体のバランスが取れる。
    尚、古流剣術「柳生新陰流」等には、左手が上、右手が下という刀の持ち方の通常とは逆になる刀法(左太刀)(下図)がある。
    だが、この4の稽古で注意しなければならない事が幾つかある。
    • 合気道はこちらからの攻撃はしないから、相手の攻撃を防御する形にしなければならない。相手に打たせるようにしなければならない。待ちの態勢だが、実は大いなる攻撃なのである。気を出して、気結びすればそれは可能であるようだ。
    • 合気道の理合いの息づかいと体づかいをしなければならない。
      例えば、イクムスビや阿吽の呼吸をつかう事である。また、手足を陰陽につかう、手足や腰を十字につかう等である。
    • 天地の気と息に合わせる事である。これによって時間も空間(距離等)も超越した動き(勝速日)が出ることになり、剣の動きにも勝るというより、剣の動きとは異次元の異質の動きが出るようで、この勝速日により、剣の迅速な動きを捌くことができるのではないかと考えている。
  5. ここでまた手に剣を持てば、合気の理合いの剣が遣えるようになるはずである。これを完璧にやられたのが大先生であったし、大先生の合気の動きを見た剣の道に経験のある人たちは、合気の動きは剣の動きと同一だと思ったと同時に、大先生の合気道の理合いでの剣づかいに魅了されたものと考えている。
剣の動きを合気道の技と体の動きに一致できるように稽古をしていきたいものである。