【第653回】 かかとと爪先

合気道の技をつかうには、体、つまり体の各部位を理合いでつかわなければならない。理合いとは、法則に則ったつかい方をすることである。
これまで手を十字につかうとか、手足や腰を陰陽につかう等々を研究してきたが、今回は「踵と爪先」という体の部位の重要性とつかい方を研究してみたいと思う。

今回の「踵と爪先」の研究で、これまでと違うことがある。
これまでの体をつくるための体の部位の研究は、人の体の内部に留まったものであったが、今回の「踵と爪先」は、天地・宇宙とのつながりでのものである。天地の呼吸、天地の引力とのつながりによって、技をつかう際に、どのように、踵と爪先をつかえばいいのかを研究するのである。
これは、これまでと違った次元のものであるから、勿論難しいはずである。しかし、人の中にだけ留まっていては、合気道の目標である、宇宙との一体化など不可能であるから、挑戦しなければならないと考える。

「踵と爪先」の重要性を意識したのは、阿吽の呼吸により、多少天地の呼吸を感じ、天地の引力を実感するようになったからである。天と地の間にある人は、天と地に引っ張られ、そして天と地に押されている。これが天地の引力であり、天地の呼吸でもあると考える。
この天地の引力と呼吸は、人の呼吸によって強化されたり、調整できると考える。

これが分かるのは、阿吽の呼吸での剣づかいである。
剣を振り上げる際は、阿吽の阿で、息を引きながら縦、横、縦と上げるが、剣が気に導かれ、天の引力に引かれて上がっていくと同時に、腹から気が地の引力に引かれて地に降り、体も地に沈んでいく。
この時、一軸の体の重心と体重は踵に掛かっている。
尚、手(剣)は天、足(体重)は地の方向と互いに逆方向にあり、気も天と地の逆方向に向かっている。しかし、更によく観察してみると、天から腹へと、地から腹へと向かう気(引力)が同時に働いていることを覚える。

上に上がった剣を振り降ろす。阿吽の吽で切り降ろすのだが、踵にあった重心と体重は、踵から爪先に移動するのである。この踵から爪先への移動によって、己の体重に加え、天地の力がつかえるようになるのである。もし、踵からではなく、爪先に体重を直接落として剣を切り落せば、地はその力に反発し、大きな力にならないし、膝を痛める事にもなる。

この剣をつかう踵と爪先のつかい方は、合気道の技での正面打ち一教や入身投げでも同じである。下に有川先生の正面打ち一教で、踵から着地して手を上げているものを載せる。

剣を切り降ろす時は、踵から爪先へ体重を移動するわけだが、振り下ろした剣を上げる際は、爪先から踵へ体重が移動する。気が腹から胸そして天に昇っていくが、同時に、地の引力で、腹から踵に気が下りていくのを覚える。
つまり、気(エネルギー・生命力)は、一方向や片方だけに働くのではなく、双方向、両方に働くのである。上に気が働けば、下にも働き、下に気が働けば、上にも働くのである。そしてその中心は腰腹である。また、上げ下げするのは息である。そしてその息を気でつかうのである。気の妙用である。
息だけではなく、足にも気を入れ、気で満たしてつかわなければならない。踵にも爪先にも気をつかい、気を満たしてつかわなければならないことになる。