【第650回】  一教の難しさ

一教の難しさに気づき、一教に挑戦し続けて10年ほどになる。一教は難しい。更に言えば、一教の難しさに悩まない内は、まだまだ合気道の初心者といっていいようだ。

一教の基本は、正面打ち一教と考える。正面打ち一教は、刀の時代に、刀の攻撃に対する対処法であり、その対処法の基本であったと思うからである。それを型にしたのが、大先生も修業された大東流合気柔術であろう。「一本捕り」という型である。刀で切り降ろしてくる腕を抑え、相手を崩し、そして相手の刀を取る術である。合気道の正面打ち一教とは大分違うように見えるが、本来は根本で同じと見ている。同じ側の手足を陰陽につかう等である。
合気道の正面打ち一教がある程度出来てくると、大東流合気柔術の「一本捕り」の型がなぞれるようになる。しかし、合気道の正面打ち一教にはまだまだ満足できないでいる。

一教の難しさは、法則に従った体づかい、息づかい、そして技づかいを厳格にしなければならないことのように思う。勿論、四方投げでも入身投げ、小手返しでも、すべて宇宙の法則に則っていなければならないわけだが、一教は他のモノに比べて、より厳格に、正確にしなければならないように思える。だから、この「正面打ち一教」は難しく、合気道の極意技であるとも言えるのだろう。

例えば、次のような法則を厳格・正確にやらなければならないと思う。
○中心から動かす。相手の打ってくる手を抑えるために、こちらの手を上げるに際して、手をあげるのではなく、体の中心の腰腹を動かすことによって手が上がるようにするのである。上げる手は、手先から胸鎖関節までの全体を上げなければならない(有川定輝先生の教え)。
この際、腰は体で腹は腰の用ということになり、腰が支点で腹が動くことになる。従って、腹を体の支点として、腰を体の用としてカラダをつかうと、腰を痛めることになる。
○体の中心を動かして手をつかうためには、体(腰・腹・肩・手・足)を陰陽・十字につかわなければならない。
 陰陽とは手足と体が右左に交互に規則的に動くことである。これはこれまで再三書いてきた。
 十字とは、手の縦の十字と横の十字である。十字にすることによって円の動きをつくるわけである。(2.合気道の体をつくる 「第478回 さらなる円)参照)
 次に足の十字である。足も撞木足で十字々々につかわなければならないのである。これによって体(腰腹)も十字に返り、大きな力が出ることになる。
また腰腹が足の陰陽で十字に動くと、気(エネルギー)が体の中心から流れて来て、手が上がる。この手で相手と一体化する。手を先に動かして出したり、力んでしまえば、相手の力に抑え込まれたり、弾き跳んだりしてしまう事になる。
○息も十字につかわなければならない。息づかいの基本は、イクムスビであるが、基本は縦と横の十字である。イー(縦)と吐いて、次のクー(横)で吸う息が重要である。吸う息は火で、大きな力を持つから、この引く息を大事にしなければならない。胸が強靭で柔軟性がなければ、沢山息を吸い込むことはできない。形稽古で意識して、このクーの吸う息づかいを鍛錬することである。
クーと息を吸いながら手を上げると、肩の高さで手が上がらなくなる。そこで縦に胸まで上がってきた息を胸のところで横に拡げるのである。ここで肩が貫けるので、手は更に上に上がることになる。
正面打ち一教では、ここで横への息づかいをしないと、己の手が折れ曲がってしまったり、相手を弾くことになったり、力負けしたりしてしまうので重要なところである。
後は、十分上がったところで、息をムー(縦)で吐いて決めるのである。

この体のつかい方は、剣の振り上げ、切り下ろしの形と息づかいと同じようであるから、剣で鍛錬するのもいいだろう。