【第648回】 合気道の体と水

今年の夏休みは大変だったが、貴重な経験をした。
水中毒である。そして水中毒になったことにより、水と体の関係が少し分かったことである。
水中毒という病名がある。
「水中毒(みずちゅうどく、water intoxication)とは、過剰の水分摂取によって生じる中毒症状であり、具体的には低ナトリウム血症やけいれんを生じ、重症では死亡に至る。人間の腎臓が持つ最大の利尿速度は、毎分16mlであるため、これを超える速度で水分を摂取すると、体内の水分過剰で細胞が膨化し、希釈性低ナトリウム血症を引き起こす水中毒に陥る。」とある。
私が経験したことからこれを具体的に言うと、アルコール中毒とか麻薬中毒と同じような水の中毒である。水がきれると水を求める禁断症状に陥るのである。

この水中毒は、金曜日の夜から始まった。道場での稽古の前後も稽古中も水分を取った。猛暑であったので、水分をこまめに摂るようにテレビでも世間でも言っているので、水分を極力取ることにしていた。
道場から電車の駅に行くまで、電車の中でも、電車から家に着くまでも水をこまめに飲んでいた。只、異常だったのは、水を飲めば飲むほど水を飲みたくなったことである。

家に帰って一息つくと、膝が腫れてきたのである。稽古で膝を打ったり、駆使したりすると痛くなることもあったので、いつもの過酷からの膝の腫れかで、寝れば治るだろうと思って寝たのだが、痛くて眠れないのである。痛い足を立てることも、寝返って返すことも痛くてできないので、テェーピングを張ればいいだろうと考え、膝の周りにテェーピングをしたら、何とか寝る事ができた。

朝、膝の痛みで目が覚めた。そこでどうして膝が痛くなったのかを考えた。膝をぶつけたり、ひねってはいないようだから、昨日、何か普段と何か違ったことをやらなかったか思い返した。結論は水である。目が覚めても水が飲みたくて飲んだ。水が膝に水を溜め、腫らし、痛くしているのである。

起きてみると膝に水がたまってパンパンに膨れており、足の甲も水ふくれしているし、段々と膝と足の甲の間の足のすねも水で膨れだしていたのである。

そこでこの水ぶくれを直すことに挑戦することにした。
まず、水を極力取らない作戦を取ることにした。水中毒はまだ続いているので、水が欲しくてたまらないが、うがいで済ませることにした。冷やした水でうがいをすると気持ちがいい。このうがいでわかったことは、水中毒で体が水を欲するわけだが、水を飲めといっているのではなく、水を体にくれといっているので、うがいで水を喉にいれるだけでも水中毒の禁断症状はなくなるようである。もしかすると、ひどい場合は水風呂やプールに入るといいかもしれないと思ったが、今回はそこまでは実験しなかった。

膝の水、足の甲の水、膝と足の甲の間の水を抜くには、水を飲まないだけではなくならない。二つの方法が考えられる。一つは、その部位で汗をかいて排出すること。もう一つは、新陳代謝をよくして体外に排泄することである。これは通常なら道場稽古で、両方一度にやってしまうのだが、道場は休みなので、違う方法でやらなければならない。
そこで散歩することにする。膝は痛めているわけではないから、歩くことはできるから、近所を1、2時間歩いた。そして帰宅後、風呂にゆっくり入って汗をかいた。これで大分、膝の腫れは引いた。

面白いことに、膝の腫れが引く前に、まず、足のすねの腫れが引いた。そしてその次に足の甲の晴れが引いたのである。
もう少し水腫れの箇所をいうと、足の甲が腫れると足の底の母指球のところがざらつき、ひび切れがしたのである。これまで足底がざらつくことがあったが、これも水の取りすぎが原因であったと考えられる。また、朝起きて床を踏んで立ち上がる時、足の裏の一部で痛みを感じる時があるが、それも水膨れであり、水の飲み過ぎからくると考える。
膝の腫れが完全に引いたわけではないが、正座ができるようになったのは、水中毒後10日であった。

水を飲むようにと言われるが、ただ飲めばいいということではなく、注意が必要であることがわかったわけである。物事にいい事だけなどない。必ず悪い事が後ろに張り付いているということを改めて教えて貰った次第である。

通常は合気道の体をつくることを書いてきたが、体をつくるだけではなく、体を壊さないようにすることも、体をつくるために重要だと思い、この文を書いたのである。