【第646回】 膝の水たまりは水中毒から

膝に水が溜まって痛くて歩けなくなったのは、今回で2回目である。前回は板の床に正座をして鍛錬棒を振っていて、膝の関節が直接床に当たり、炎症を起こしたものである。それ以来、床に座布団を敷いてその上に座って振っている。今は、問題ないから、この解決策は正解であったようだ。

さて、今回の膝の痛みである。金曜日の夜の稽古を終わって、元気に家に戻って来たのだが、食事の後、膝が痛くなってきたのである。右膝に水がたまり、上から押しても痛いし、立とうとしても痛くて満足に立てないのである。寝れば治るだろうと思って床に入ったが、じっとしていても痛いし、寝返りを打とうとしても痛くて打てない。
このままでは、この痛さで一晩中寝る事ができないし、膝の痛みはよくなるどころか、ますます悪化するようなので、何とか少しでも痛みを抑え、少しでも寝るにはどうするかを考えた。
そこで思いついたのが、テーピングである。膝の要所、要所をテーピングしたのである。無様な膝になってしまったが、お陰で痛みは大分抑えられ、寝返りも打てたようで熟睡できた。

膝の違和感もあって、目覚めたが、寝床の中で、何故、膝が痛くなったのか、水が溜まったのかを考えてみた。昨日の稽古の後で何か普段とは違ったことをしたはずであり、それが膝の痛みを引き起こした原因のはずである。
そしてその原因は水の飲み過ぎだという結論に達した。通常より多い量の水をがぶがぶ飲んでいたのである。稽古の前後に多量の水を飲み、稽古中もボトルの半分のスポーツドインクを飲み、道場から電車の駅の間、電車の中で頻繁に、そして大量に飲んでいたのである。勿論、帰宅しても水を飲み、それに焼酎のハイサワー割り、ウイスキーのソーダ割のハイボールなどを次から次と飲んでいたのである。

そこで起きて、インターネットで、水を飲み過ぎる害を調べてみた。すると水中毒というのがあることが解った。水をあれだけ飲んだのは、水の中毒だったのである。そう言われれば、水を飲んでちょっとしただけで又水を飲みたくなるのである。喉のあたりで「水くれ、水くれ」と体が訴えるのである。これは確かに中毒症状である。麻薬中毒、アルコール中毒の人の気持ちがよくわかったし、これらの中毒から逃れるのは大変であることも分かった。インターネットには水中毒の説明はしてあるが、中毒になっていない人が書いているので、どの文章も中毒の辛さやその解決策などは記していない。

今年は例年になく猛暑日が続き、水を飲め々と言われてきた。だから、水を飲むのはいい事だろうと、好きなように飲んだのである。鍼灸師の弟にも水を飲むように勧められた。ただし、梅干しを食べるといいといわれたので、毎日、10数年前に彼がつくって送ってくれてあった梅干しを毎日1〜2個食べて、そして水も飲みたいだけ飲んでいたのである。

ところで水中毒である。「水中毒(みずちゅうどく)とは、過剰の水分摂取によって生じる中毒症状であり、具体的には低ナトリウム血症や痙攣を生じ、重症では死亡に至る。人間の腎臓が持つ最大の利尿速度は、毎分16mlであるため、これを超える速度で水分を摂取すると、体内の水分過剰で細胞が膨化し、希釈性低ナトリウム血症を引き起こす水中毒に陥る。」
膝に水が溜まったのは、水中毒によって体内に入った過剰な水分が、水を溜めやすい膝に集まり、膨化(ふくらます)させたわけである。

膝の水たまりは水中毒からであるという理由がわかった。膝の水たまり及び水中毒を直すためには、水を極力飲まないことである。しかし、敵は中毒であるから、並大抵ではない。水は飲むなと言い聞かせているのだが、喉のところで「水くれ、水くれ」と体が訴えるのである。そこで体は水を欲しがっているが、飲むのは不味いだろうと思い、もしかすると体は飲むことまでは要求していないのではないかと思い、冷蔵庫で冷やしてある水を小さなグラスに入れ、水を口にいれるが、それでうがいを数回してみた。このうがいで中毒症状は多少楽になるが、やはり時間が経つとまた症状がでてくるのである。
そこで家の中にいると、水中毒も甘えるようなので、水のないところに行けばいいだろうと、外出することにした。膝は相変わらず膨化状態にあるが、膝を怪我しているわけではないので、歩くことはなんとか出来るようになっている。
歩くことによって、水中毒の禁断症状から抜け出し、そして歩くことによって新陳代謝をよくし、膝から少しでも水分を取ろうという作戦である。

ただ暑い中ただ歩くのも面白くないので、目的をつくった。それはかき氷を食べる事である。水中毒にいいのかどうか分からないが、最近、かき氷を食べていないので食べたいと思ったのである。しかし、最近はかき氷を食べられるお店をほとんど見かけなくなったので、探し当てるのは大変だと思っていたが、案の定自分の駅周辺と前後の駅の周辺を捜したが見つけることは出来なかった。でも、もしかしたら、水中毒には、その方がよかったのではないかと、自分を慰めている。

かき氷探しを諦めて、帰宅途中で行きつけの喫茶店に入り、レモンスカッシュといつものコーヒーを飲んだ。レモンスカッシュを飲むと水中毒はどんな反応をするか見ていると、それまでの喉のあたりで「水くれ、水くれ」という声が聞こえなくなったのである。その声が聞こえなくなったことにより、喉から胃の辺りまで、すっきりして久しぶりの健康感を味わったのである。
因みに、水中毒でない健康的な喉の渇きは、喉のあたりでの「水くれ、水くれ」ではなく、もっと下の体(胃や腸、体全体)からの訴えのように思え、全然異質の渇きなのである。
その後のコーヒーも水くれの声を消してくれたのである。水以外の飲み物を飲んでも水中毒をおとなしくさせてくれることがわかったわけである。
そこで、その晩はビールを飲んで喉の渇きを癒し、水中毒に対抗してみることにする。

夕食はドイツ風のハムとチーズとパン。それにビールである。ビールも水分が多いわけだからどうなるかと思ったが、ビールは喉の渇きを取り、喉のあたりでの「水くれ、水くれ」の声を一掃してくれたのである。水中毒にはビールがいいようである。しかし、ビールは昼間から飲めないし、あまり飲んでいるとアルコール中毒にもなるので注意が必要だろう。これまで、ビールをこんな風に評価したことはないが、体が極限状態にあるとその本当の良し悪しが分かることがわかった。昔から、ビールは利尿作用があって、かっては薬として飲まれていたともいうが、その意味が水中毒を期にわかったのである。
しかし、ビールは喉の渇きの水中毒を解消してくれたが、残念ながら膝の腫れへの水分補給をしているようである。膝の腫れを完治するためには、やはり水分をできるだけ控えるのがいいようである。

今回の教訓は、猛暑で水を飲むのはいいと言われているが、物には限度があり、いい事でも度を過ぎると害になるという事である。物事には必ず表裏があり、良し悪しがあるということである。

また、体は常に最良の状態にしようとしていることも分かった。だから、体を信用することである。そして、最良な状態に向かうのを阻害するもの、例えば水中毒等があれば、体は訴えてくるので、それに耳を傾け、体と対話しながら、体と共にその阻害しているものを取り除いていかなければならないということである。
これは合気道の精神である。宇宙生成化育を害するものを取り除いていくことが合気道の使命であるからである。