【第643回】  猛暑の稽古

今年(2018年)の夏は、35度以上の日が続く猛暑である。熱中症で毎日何人かの方々が亡くなっている。テレビなどでは、用事がなければなるべく外に出ないようにと警告している。合気道の稽古に行くのは、他人から見れば、必要不可欠の用事というわけではないから、外出を控えた方がいいと思うだろうが、当人たちにとっては必要不可欠の用事であるので、稽古に行っている。

他人から見れば、このくそ暑いのに、汗だくになり、道着を汗でびっしょりにし、息をハアハアゼイゼイさせてご苦労様なことだと思うだろうが、確かにその通りだ。しかし、その暑さに敢えて稽古をする面白さがあることも確かであり、そのために多くの稽古人達はこの暑の中、稽古に通っているわけである。

暑さに耐えて稽古を終えた顔はみんないい顔をしている。汗をびっしょりかき、体はぐったりしているが、やりきったという満足の顔になるのである。
この顔は、暑いからと言って、冷房のある部屋でごろごろしている顔とは全然違う。どの顔も輝いている。顔が輝いているのは、汗光もあるだろうが、満足した心の光のはずである。

暑い夏の稽古は、大変である。特に、今年のような猛暑の続く夏の稽古は苦しいものである。暑さと、湿気で息が乱れ、息が上がってしまうのである。息が上がってしまえば、胸は苦しくなり、気持ち悪くなり、頭がボーとしてくるから、稽古が出来なくなり、休憩ということになってしまう。稽古は1時間なら1時間、2時間なら2時間を休憩なしでやるのが原則であるから、途中でギブアップして休憩というのは、その稽古は駄目だったということになり、何か問題があることになる。

夏の稽古の重点事項の一つは、稽古時間を最初から最後までやりきることである。多少、苦しくとも、それを乗り越えてやりきるのである。
これは夏の稽古の試練であると同時に、息づかいの重要さと息づかいを学ぶいい機会だと考える。

息づかいを上手くしないと、息が乱れる。特に、力を込めて相手を倒そうとするときは、息を吐くので、ここで息が乱れることになる。
息の基本は、イクムスビである。この息に合わせて、体と技をつかっていけばいい。また、受けを取る際も、取りと同じように、このイクムスビの息づかいでやればいい。息を吐いて頑張ったり、息をつめて受けを取ると息が乱れる。

相手の動きと自分の動きが合わないことも、息が乱れる原因になるから、自分の動きに相手の動きを取り込むようにしなければならない。そのために息で己の体と技をつかうと共に、息で相手を導くのである。
異なる相手や、刻々と変わる状況に合わせるため、己の息を長くも短くも、強くも弱くも自由に使うようにしなければならない。相手が若くて、受けも上手である場合は、息で電光石火に体を動かし技を使ったり、相手が高齢者で暑さに参っているような場合は、大きくゆっくりしたイクムスビで動くのである。
早い息づかいも容易ではないが、大きくゆっくりした息づかいも難しいものである。肺やお腹の腹中が固まっていて、弾力性がなく、大きく息を入れることができないからである。

春夏秋冬の内、夏は筋肉や関節が緩む季節なので、息づかいによって胸中を拡げ、弾力性をつけるにはいいようだ。また、手首や腕や腰や脚などに筋肉をつけたり、伸び縮みする弾力性をつけるにもいいようだ。

猛暑の夏の稽古は苦しいが、いろいろ学び、試せるチャンスでもある。