【第633回】 和服で歩く

最近、和服を着て歩くようにしているが、これまで気が付かなかった体のことが分かってきた。

まず、道場での稽古人のほとんどが、洋服を着ている体のつかい方をしているということである。具体的には、同じ側の手と足が一緒に動くナンバの一軸歩行ではなく、所謂、手と反対側の足が動く歩行であるということである。ナンバの一軸歩行でないと、先の稽古に進むのが難しくなるだろうと見ている。
和服を着て、洋服を着たときのように歩いたら、着崩れしてしまうから、ナンバの一軸歩行は必須であり、それ故、ナンバの一軸歩行を身につけるには、和服を着て歩くのがいいことになる。

和服で歩く場合、踵から着地する。道場の相対稽古でも、技は踵から着地しなければならないことが再確認できる。

また、和服では腰で歩かなければならない。洋服で歩く際は、足を前に出して進むが、和服では、まず腰が進んで、その腰の下に足を着く。技もこの腰と足のつかい方をしなければならない。着物はこのいい稽古にもなるわけである。
尚、洋服を着て街を歩く人に、蹴とばされたり、履物を履まれたりすることが多いが、その原因は、この足を前に出して歩く歩法によるものだろう。

和服を着た場合、腰で歩かないと、階段の上り下りはできない。しかし、帯で腰腹を締めているので、腰腹は動かない。腰腹を下手に動かせば、着物がはだけることになる。
体の中心である腰腹が動かないので、股関節を動かすことになる。股関節を着地や歩行で上下、左右、前後に使わなければ動けない。つまり、和服で歩けば、股関節が柔軟に、そして丈夫になるわけである。
街中で、まともに歩けない高齢者を結構沢山見掛けるが、動ける内に和服を着て歩けば、股関節が多少柔軟になり、年を取っても、もう少しまともに歩けるのではないかと思う。恐らく、戦前のみんなが着物を着ていた時代には、股関節が柔軟だったはずなので、今のようなチョコチョコ歩きの高齢者や歩けない高齢者はいなかったのではないかと思う。

洋服は確かに動きやすい。体の部位を個々に動かしやすい。走しったり、力をつかう動きにはいい。社会に労働力を提供するためにはいいだろう。しかし、その必要が無くなっても、動きやすく、着安い等と安易な衣類に頼っていると、体の方が働かくなり、機能が低下する。
とりわけ、武道の合気道を修業している人は、一度、着物を着、原点に戻って体を見直してみるといいだろう。合気道ができたのは、洋服の時代、洋服の文化の中ではない。着物文化の時代である。一度、着物時代の原点に帰ってみるのもいいだろう。和服をたまにでも着たら、体のつかい方も技も変わるかもしれない。