【第629回】 高齢者の体の問題解決と合気道の知恵

街を歩いていると高齢者、超高齢者を沢山お見掛けする。日本人が長寿となり、日本が高齢化社会になったからである。男性の平均寿命は80才、女性は87才で、4人に一人が65才以上の高齢者だから目につくはずである。
高齢者でもお元気な方がおられる一方、四苦八苦しながら歩を進めておられる高齢者も目につく。見ていてハラハラする。だが、知らない人だから、こうすればいいですよとか、こんな運動がいいですよ、こんな歩き方は駄目ですよ、などお節介な事は言えない。

合気道の稽古ができれば、街を歩くことや、日常の生活には問題ない。だから、稽古は体のバロメーターと云える。問題は、稽古ができなくなり、そのバロメーターが使えなくなったときである。
その時を考えて、自分の体が機能し続けるように、今からでも準備しておくのがいい。また、機会があれば、歩行もままならないような高齢者に教えてあげればいい。合気道が世のため人のためになるのである。大先生も喜ばれるはずである。

合気道は技を練って、技を身につけ、体をつくっていく。合気道の技は宇宙の営みを形にしたものであり、俗に云えば、自然で無理のない体のつかい方を修練していることになる。
体は宇宙の営み・法則に則り、その理に合ってつかっていかなければならないことになるが、高齢者になると、この理合いの体のつかい方ができなくなって、体が動かなくなったり、怪我をしてしまうわけである。合気道を知らなければ尚更である。

自分自身はまだ、体が動かないような高齢者ではないから、どんな体の機能の問題があるか分からないが、幾つか目につくことがあるので、その例で考えてみたいと思う。

  1. 日帰り温泉などで脱衣する際、靴下は云うまでもなく、ズボンも立ったまま脱いだり履いたりできない高齢者を見掛ける。勿論、若者でもいる。
    この問題を解決するには、ズボンを脱ぐ前に、気と息を頭から足に、足から頭に突き通すのである。それからズボンを履くのである。
    これは合気道の教え、「天の呼吸により地も呼吸するのであります」にある。仕事をする際は、まず、天地の縦からやらなければならないのである。縦の気や息が働くと、横が働くということである。
    この縦からは、歩を進める際も当てはまる。足をしっかり地に着けないのに、体を進めたり、手や足を出せば、不安定になったり、力も出ないのである。
  2. 超高齢者の極端に悪い歩行は、所謂、チョコチョコ歩きである。数センチづつ、体が硬直してロボットのように歩く。一寸触られたり、押されたら丸太棒のように倒れるだろう。
    この歩き方は、前後左右の重心移動がないことが問題なわけである。左右の足の真ん中に重心を置いて歩いているのである。
    この歩き方を直したいならば、まず、踵で着地して歩くことである。これで重心は前後に移動できることになる。次に、撞木足で歩くようにし、股関節のコリをほごしていくことである。これで左右にも重心が移動することになる。
    出来れば、一軸で歩行が出来るようになればいいが、体と頭の老化の程度によっては難しいだろう。
  3. 動きを良くするためには姿勢が大事であるが、高齢者は猫背の傾向がある。背中ではなく胸や腹の面に力や気持ちを集めてしまっている。
    背中側に力を集め、背中側からの力をつかうようにしなければならない。
    合気道では、万有万物には表と裏があり、表を使うようにしなければならないと教わっている。合気道の技でも、体の裏をつかって掛けると、力が出ずに技が効かないだけでなく、体を壊すことになるのである。
この他まだまだ問題はあるわけだが、紙面の関係でこの3つとするが、高齢者の硬くなった体をほぐすための合気道の知恵を紹介することにする。
それは息づかいである。この息づかいを間違えると体がほぐれるどころか、ますます硬くなったり壊れてしまう事になりかねない。
例えば、開脚などの柔軟体操で体をほごしたいなら、合気道の息づかい“イクムスビ”でやることである。イーと息を吐いて体を倒し、体が止まったところからクーで息を吸い、体を更に倒す。そして倒し切ったところで更に息をムーと吐き切り、更に倒すのである。この息づかいで柔軟体操をやっていけば、体は必ずほぐれる。勿論、どの程度ほぐれるのか、どれだけの時間がかかるのか等は本人次第である。

合気道の知恵には、高齢者の体の問題を解決できるような知恵がある。今の内からその知恵を身につけていきたいものである。