【第624回】  魄から息、そして魂への稽古段階

合気道で技をつかうに当たって呼吸力は重要である。呼吸力の強さによって技の掛かり具合が違ってくるからである。だから合気道では呼吸力養成を重視している。その典型的な稽古法が呼吸法であり、片手取り、両手取り、諸手取、坐技呼吸法などがある。この呼吸法は呼吸力養成法であるから、四方投げや小手返しのように,相手を倒すことが重要ではなく、呼吸力をつけることが目的なのである。従って、呼吸法を四方投げや小手返しのような技としてやれば、意味のない稽古になってしまう。相手を投げられなくとも、呼吸力がついていけばいい。

坐技にしろ、立ち技にしろ、呼吸法は難しいはずである。特に諸手取呼吸法は難しい。こちらの一本の腕に、相手は二本の手で掴んでくるわけだから、倍の力に対向しなければならないわけである。
しかしこれが意義のある稽古になるのである。それはこれまで書いてきたように、相手の二本の手の力より強い力、異質の力をつかえばいいからである。体幹、腰腹である。諸手取呼吸法を腰腹でやれば、大きな力が出て、相手の諸手の力を制することが出来るようになる。

ここまでは、これまで書いてきたことであるが、今度は更なる問題が待ち受けているのである。仲間と諸手取呼吸法を稽古していくと、自分は呼吸力がつくが、一緒に稽古をしている仲間も腰腹をつかって、諸手で掴んでくるようになる。つまり、腰腹と腰腹の互角な質の力ということになる。
相手の腰腹で掴んでくる諸手を制するには、更なる異質のものが必要になるわけである。

それは息と魂であると思う。
これまでは、強い腕や諸手より強力な腰腹で、また相手との異質な力をつかって諸手取呼吸法をやってきたわけであるが、これはあくまでも大先生が言われる「魄」の力であったわけである。
だから、腰腹の後は「魄」を脱して、「魂」の力をつかえばいいと考える。しかし、まだ、「魂」の力を明確に把握できていないので、取り敢えず息でやればいいと思う。

息とは、イクムスビや阿吽の呼吸であり、体を陰陽十字につかいながらつかう呼吸である。「ク」や「阿」で、諸手で掴んでいる相手は浮き上がってきて、重力がなくなるので相手を制し、導くことができるようになるのである。
勿論、この方法は諸手取呼吸法だけではなく、坐技呼吸法でも、そして通常の基本技にもつかえるし、つかわなければならない。

更にもう一つある。これは合気道で求めている、「魂」が「魄」の上になって、「魄」を導くであり、強い魄の力(腕力、体力)を魂で制御、誘導するのである。
文量の関係で、これは次回とする。