【第614回】 十字の縦を足裏で

合気道の技はぶつかってぶつからないようにつかわなければならない。これをしっかりやろうとすると中々難しいはずである。難しいから、大体はこの逆をやることになる。ぶつからないように打たせ、そしてぶつけて技をつかい、しっかり持たせないで、そして力任せに、つまりぶつけて技を掛けている。
まずはぶつかる稽古をしなければならないと思う。ぶつかった箇所に痣ができて痛いし、相手は必ず頑張ってくるので技は効かないから、逃げたくなるだろうが挑戦しなければならない。逃げたら、次の稽古に進めないと思うからである。

これまでぶつかってぶつからないためには、体を十字につかわなければならないと書いてきた。足は撞木、腰を十字十字に返す、また、足底を踵→小指球→母指球とアオルなどである。
この体を十字につかって十字の技を掛けると大体の相手は倒れてくれるものである。しかし、完全ではない。ぶつかって、ぶつかってしまうのである。特に、それが良く分かるのは正面打ち一教表である。相手の手を受け止めて、それを足と腰で十字に返すのだが、相手の力とまともにぶつかってしまうので、後はどうしても腕力でやることになるのである。相手の力が弱ければ倒れるが、強ければ上手くいかないのである。

よくよく考えてみると、このぶつかる理由は簡単である。
ぶつけた手を、そこから横(床に水平)に返しているからぶつかるのである。十字には返しているものの、平面の動きであるから、相手は十分に頑張れるので、ぶつかってしまうのである。

ぶつからないためには、この横の体づかいではなく、横から縦につかうのである。平面の動きから立体の動きにするわけである。相手の打ってくる手に己の手(手刀)がぶつかったら、そこからその手を上にあげるのである。相手が浮き上がってくる。だが、手だけを上げても相手は動かないものである。

ぶつかったら手を上にあげ、相手を浮かしてしまうのはそう簡単ではないはずである。やるべきことをやって体を鍛え、体が一軸になり陰陽でつかえるようにしなければならないし、イクムスビの息づかい、とりわけクーの引く息をつかえるようにしなければならない。
また、手先と腰腹の結びとを切らずにつかえるようにしなければならない。相手の手とぶつかった、己の手と己の腰腹と結んでいなければならないし、そしてその手と足も繋がっていなければならない。

手と腰は常に結んでいなければならない。また、手と足も結んでいなければならない。だから、手だけをただ上げるのはご法度である。それ故、手だけを上げても相手は浮き上がらないのである。

相手が浮き上がるように手を上げるためには、手を上げるのではない。手と結んでいる足で上げるのである。足で上げるとは、踵から着地して体重を爪先に移動すると、己の体と手先が自然に上がっていくことである。
このためには息づかいが大事である。特に、引く息が大きな役割を果たすことになる。また、手、足、腰を上手くつかわなければならない。稽古が必要になる。

相手が浮き上がってきたら、今度はこれまでの横の十字で動けばいい。今度は力まずに、相手を導くことが出来るはずである。

これは正面打ち一教表での十字の縦を足でやると説明であったが、恐らくこれは他の形にも適用できるものと思っている。呼吸法、入身投げ等々の他の形で実験してみることにする。