【第59回】 身体をバラバラに使わない

合気道の稽古で技をかける場合、当然力がいるわけであるが、出そうとする力が思うように発揮されていないことが多い。本人は一生懸命力を出しているつもりであるが、その力が伝わってこない。また、力には気持ちがいいものとそうでないものがある。気持ちがいい力というものは無理がない力ということができる。無理がないということは理に合った、理合の力である。接点を動かさない、対極や中心から出る力で、むすびの力、引力を伴った力である。

初心者はどうしても手さばきで技をかけてしまう。手先だけを使って技をかけるのである。その理由のひとつは手だけに気がいって、足が動かず、足が居ついてしまうからである。足が居つけば、上半身を無理に捻るか上半身の手の力を使うしかなくなる。

もうひとつは手を過信して、手は強い力がでるものと思って、手に頼ってしまうからである。身体の末端にある手、手先は体の部位で最も弱い力しか出ないところである。一番力がでるところは体の中心である。中心線に近づけば近づくほど強い力が出る。身体の上下、左右での中心は腹であり、腰ということになる。しかし、「仕事をする」のは一般的に手であり足である身体の末端の所謂、四伎である。そこで腹や腰などからの力を如何に手先に伝えるかが、力を有効に使うための要点となる。

力を有効に使うためには、如何なる場合も手先と腹はむすんでいなければならない。相手に手を取られて手がふらふらするようでは、腹と手がむすばれていないことになる。腹と手がむすぶと、取られた手で技をかける場合、手を動かすのではなく、腹を動かせば手が動くことになり、より強力な力が出るのである。持たれている手先は反転々々と回転し、正中線を上下するだけである。

また、手は常に身体の中心線上になければならない。手が中心線上をはずれると出る力は弱くなり、相手に制されてしまう。典型的な例は、四方投げで方向を変えて投げるときだが、手が頭の横や後ろにいくと、相手に引き倒されてしまう。両手を使う場合は、両手の真ん中に身体の中心がくることになる。この形がくずれれば身体が足、腹、腰、手、顔が一致しなくてバラバラになることになる。

合気道の稽古はどんな形や技をやるにしても、身体を一つとして使わなければいけない。手、腹、腰、脚が連動して動かなければならないのである。連動して動くためには、まず動くような身体をつくらなければならない。これも合気道の陰陽の考え方といえるかもしれないが、連動するためにはまず分解することである。つまり、身体のすべての部位を分解して部位ごとに自由に使えるようにしなければならない。手には7つの部位、足は6つの部位があるが、それを一つ一つ分解して鍛える、意識した稽古が必要であろう。合気道の稽古は節々のカスをとることともいわれる。カスをとって節々を働くようにさせよということであろう。

そして、ばらばらにした節をすべてむすんで1本とし、力が切れないように使わなければならない。身体はばらばらに鍛えて、技をかけるときにはばらばらには使わないことだ。

手と腹をむすび、手と腹と足をむすび、身体全体を一つに使って強い力を出し、相手の力を引き出す稽古の基本的なものとして「逆半身片手取り転換法」がある。この転換法は、身体のどこかにゆるみがあったり、身体をひねったり、腰を引いたりするとできないものである。この動きを見れば、その人の合気道のレベルが大体わかる。身体をばらばらに使わないためには、「逆半身片手取り転換法」を沢山稽古することを勧める。