【第587回】 頭も体も柔軟に

人はある程度の年から体も頭も衰えてくる。それを世間では老化現象といっている。
合気道の稽古をやっていても老化現象から逃れることはできない。それがいつから始まり、どの程度に老化するかは、人によって違うし、稽古のやり方、生き方によっても変わるであろう。

合気道を続ける意味でも、体と頭の老化を少しでも遅らせたいと、誰でも希望しているはずである。体も頭の若い頃のように柔軟になればと願うわけである。
合気道の稽古の次元で、老化とは、一言で言えば、硬化であり、硬くなることであろう。硬くなることになって、体が動きにくくなり、力も出なくなり、そして無理に動かすことによって体(腰、膝、肩等)を痛めてしまうのである。体が硬くなると、頭もそれに比例して硬くなるようである。どうも頭と体の硬さ柔らかさは相関関係にあるようだ。
従って、体を柔らかく、柔軟にしたいと思えば、体を柔軟にすることと頭を柔軟にすること、つまり頭を柔軟いつかうことになろう。

頭を柔らかくするためには、先ず心をやわらかくすることである。年を取ってくると、自分のやって来たことは正しいと、意固地になり、他人の言うことや、周りが提供してくれるものを取り入れようとしなくなってくる。道場でも、間違いを指摘し、問題の解決策を言っても耳を傾けようとしないのである。
頭が固いということは、出来上がってしまっているとも言えよう。合気道など、習い事をしているのなら、出来上がってしまっては、先に進むことはできずそこで終わりである。まだまだ未熟だから、少しでも多くの事を、学ばなければならないと思わなければならない。

頭、そして心を柔らかくするためには、人の話をよく聞くことである。人の話に耳を傾け、人の話を遮らずによく聞くことである。
先日、103才になる知人と会ってきた。体も一人で歩行できるほどだし、頭も柔らかいのである。彼女は、われわれの話をじっくり聞き、質問にははっきりと自分の考えを述べるのである。
また、彼女はものごとのいい面を見、いい方向、つまり世の中をよくする方向に話していた。つまり、いろいろ苦労もあったはずだが、生きていることに感謝し、我々に少しでも楽しむことが大事であると教えているようであった。

心を柔らかくし、頭が柔らかくなれば、体も柔らかくなるはずである。柔らかくなった頭で技の稽古をすれば、体のカスが取れ、筋肉も関節も緩み、体も柔らかくなる。
また、汗もかくので血管に多くの血液が頭に運ばれるので、頭も若返っていくはずである。

心の他にもう一つ頭と体を柔らかくするものがある。それは合気道の稽古をやっていればわかるはずである。
それは息、呼吸である。体は息によって柔軟にも強固にもなる。合気道の技は、「イクムスビ」という息づかいで掛けていく。イーと息を吐いて、クーで息を吸い、ムーでその息を吐くのである。技はこの息づかいでやるが、体をやわらかくする柔軟体操でもこの息づかいでやれば体は柔軟になる。
この息づかいでやらなければ、恐らく体は柔らかくはならないはずだし、逆に硬くなるだろう。多くの人たちが、息を吐きながら体を柔軟にしようとしている。これでは体は柔らかくならないはずである。
また、この息づかいにより、体に血液と気(宇宙エネルギー)が流れ、俗念、雑念が払われ、頭もすっきり、自由になる。つまり息づかいで頭も柔らかくなるのである。