【第580回】 大きく重い相手を導く

合気道は相対での形稽古を通して、技を練り合って上達していく武道である。稽古相手の男女や年齢、それに体重別もなく、誰とでも稽古ができるのが素晴らしい。時として、不本意な相手との稽古もあるだろうが、合気道は誰とでも稽古ができなければならないので、それもまた稽古をいうことになるわけである。

合気道は国際化が進み、ますます外国人稽古人が増えていて、そして日本に稽古に来る人たちが年々増えているようだ。しかし、稽古に来る外国人とそこにいる日本人の稽古人を見ていると、お互い敬遠しているのかあまり一緒に稽古をしないのが残念である。普段一緒に稽古できない相手がせっかく居合わせるわけだから、稽古をすればいいと思うのだが中々やらないものである。特に、体の大きく、重そうな相手とは日本人は敬遠してやらないようである。

何故、敬遠するかは良くわかる。それは大きい人、重い人には上手く技がつかえず、思うように導くことが出来ないとわかっているからである。それまでの自分のやり方が力のある外国人には通用しない事をわかっているわけである。

しかし、通用しない事はわかっていても、何故、通用しないのかがわかっていなようである。
いろいろ理由があるわけだが、簡単に言ってしまえば、魄の稽古をしているからということになるだろう。つまり、力に頼った稽古をしているからである。力なら肉食系で闘争を繰り返してきた外国人にはかなわないはずである。

それではどうすれば体の大きく重い相手を導けるような上手い稽古ができるかということになるが、魄がだめなら魂でやれなどというつもりはない。大先生でないのだから。

大きい相手とか重い相手とか、大きさや重さを関係なくしてしまうことである。魄で相手を導こうとすると、その相手の体力や重力が跳ね返ってくるので、それ以上の力がないと制することはできないから、相手のその大きさや重さを無くしてしまえばいい。相手の大きさや重さを無くすことができれば、相手の大きさや重さは関係なくなるわけである。つまり、無重力にしてしまうのである。大きさ重さを無重力化するのである。

相手の大きな重い体を無重力にするためには、法則がある。合気道の技の法則である。色々あるだろうが、ここでは最も重要と思う三つに絞る。
一つは、体を陰陽につかうことである。手も足も、また腰も肩も右左規則正しく陰陽につかわなければならない。この法則を破れば力は出せない。

二つ目は、体を十字につかうことである。とりわけ腰の十字は不可欠である。腰(腰の面)を足先の方向に対して十字、十字になるように返してつかうのである。
体を陰陽にそして十字につかうと、ある程度相手を無重力化することができる。
例えば、片手取り呼吸法なら3回は腰が十字に返らなければならないはずである。

三つ目は、これらの陰陽、十字の動きで体、取り分け腰を8の字につかうことである。8の字とは、十字からの円の動きということになる。そもそも円は十字からできるわけで、腰が十字から十字そしてまた十字に動けば、円の組み合わせの8の字になるわけである。
また、この8の字には、体だけではなく、息と心が働いており、しかも心と息と体の動きには若干の時間的、空間的なズレが生じ、8の字の感覚になる。
そしてこの8の字の円い頭の箇所(十字になる箇所)で相手は自ら浮き上がり無重力化するのである。片手取りや両手取り呼吸法は、この8の字で体と心と息をつかい、相手を無力化しなければならないだろう。
尚、腰をただ十字につかっても相手を無重力化できるが、動きに段がついてしまい、その段がついたところで相手の重さが蘇ってしまう。

相手を無重力化できれば、大きく重い相手でも導くことができるのである。これが魂でできるようになる前にやるべきことだろう。

相手を無重力化するにはもう一つの方法があるが、それは次回にする。