【第56回】 肩をまわす

合気道には肩取りという攻撃に対する技があるが、初心者はどうしても、肩を掴んでいる相手の手をむしり取って、手で操作しようとする。合気道の取り(攻撃)には、手首、肘、胸、肩、胴、腰、首、髪の毛(最近ではほとんどやられないが)など多種多様であるが、これは非常に意味が深い稽古法である。何故ならば、何々取りという稽古の意味は、取られた部位を手のように自由に使えるようにする、ということなのである。従って、肩取りで掴んでいる相手の手をむしり取ってしまっては、肩の稽古にならないので、間違いということになる。

肩を掴まれて、肩を手のように使うのは容易ではない。普段、肩をそのように使うこともないし、ほとんど必要ないからである。しかし、合気道で技をかける場合、肩の働きが予想以上に大事である。そのことがよく分かる典型的な技は、肩取りの二教、肘きめ(肘くしぎ)、後ろ両肩取り等である。肘きめ等は、肩が如何に大きく動いて相手の腕を深くとらえるかで、技の決まり方が違ってくる。普段あまり使わない左側が効きにくいのはこのためである。

肩の働きがいいということは、先ず肩が柔らかくて、柔軟性、弾力性があるということである。肩は通常はあまり使われず、硬く、固まっているものなので、先ずはほぐさなければならない。次に、肩が大きく上下、前後に動くようにし、そして大きく回るようにしなければならない。肩が自由に動くようになれば、相手が肩や胸を掴みに来て触れただけでも、肩だけで飛ばすことができるようになるはずである。

肩を鍛えるには、合気道の肩取りの稽古をすればよいが、自主稽古で鍛えたい場合には、「第55回 手刀」で紹介した手刀運動や、木刀の素振り、あるいは稽古衣の入ったカバンや書類カバンを持って歩く時に、肩を上下したり、回しながら歩く、等が勧められる。

合気道の体をつくるには、体の各部位をバラバラに鍛えなければならない。肩も他の部位と離して鍛えるのがよいだろう。