【第548回】 手先の回転角度の技への応用

前回書いたように、手先の回転角度が分かったら、それを技にどのように活かすことができるかを研究しなければならないだろう。
合気道の技は宇宙の法則に則ってできているので、技を錬磨していくことによって、その法則を身に着け、宇宙に近づいていくことになるわけである。尚、宇宙に近づくとは、先ずは「自然」に近づくことと考えればいいだろう。つまり、不自然ではない自然な動きや立ち振る舞い、無理のない自然な技がつかえるようになるということである。

また、その技をつかう人間の体も宇宙が創造したものであり、宇宙そのものであるとも言われる。それ故、人は小宇宙とも言われているのである。
宇宙の法則に則っている合気道の技は、宇宙がつくった人体をその法則に則ってつかうようにできているはずである。つまり、人の体の成り立ち、機能、限界を上手くつかえば技になるということでもある。だから、技は人の体のそれらに反しないようにできているし、つかわなければならないことになる。従って、合気道の技は、相手を痛めたり、やっつける「逆(決め)」ではなく、「順手」ということになる。

さて、手先の回転角度と技の関係である。
手先の回転角度が手首から、内・外・上・下それぞれ45度以内にあれば、人は安定して力が出せるものである。しかし、この角度を越えて手先が回転させられると、体は不安定になり、力が出せず、倒れやすくなる。

従って、受けの相手を倒すためには、相手の手先のその回転角度を越えるように回転させればいいことになる。例えば、小手返しなどはそれが分かりやすいだろう。これがないと相手の「小手」が返らず、「手首返し」「手首いじめ」になるので効かないことになる。

また、技を掛ける取りとしても、この手先の回転角度を保つことは大事である。正面打ち一教を受ける手の箇所は手刀部であるが、ここは45度外に回転していなければならない。また、その相手の腕を掴むために、己の手首を支点にして、手先を下に45度回転しなければならない。初心者はここで手先の回転をせずに、相手の腕を掴んでしまうので、相手の力とぶつかってしまい、上手く収められないのである。

もう一つ、この手先の回転角度で力が出て相手を制しやすくなるものを紹介しよう。それは、呼吸法である。片手取り呼吸法でも諸手取呼吸法でも同じであるが、この手先を十分な角度で回転させれば、それまで相手に抑えられて動けなかった手が上がるようになるものである。勿論、出来るかどうかは、相手の実力との差もあるので、必ずできるという保証はない。

受けの相手に腕を掴ませて、その腕を上げようとしても、相手の力に邪魔されて上がらないものである。とりわけ、諸手取なら更に上げづらいはずである。
その理由は、受けの相手の手先の回転角度が可動限度内にあって、相手が安定し、十分力が出せるからである。従って、相手の力を抜かなければならないが、その為に、己の手先を限界で回転することである。
まず、持たせた腕の垂直(縦)にある手先を45度回転させる。そして引き続き、更に肘を支点にした小手を45度、計90度回転させるのである。これで手先は90度回転するから、手の平は真上(真下もある)を向き、水平になる。
剣で相手の胴を切る動きである。
そうすると、相手の垂直に掴んでいた手先も同じように回転し真上(真下)を向き、相手の手先の45度の回転角度の限界を超えてくれれば、相手の力は半減する。

次に掴ませた手を上に挙げて倒すわけだが、これも手先の回転をつかわなければ、その腕は相手に抑えられて上がらないものである。
その手を上がるために、手先の135度の内回転と上への45度の回転の二方向の回転をするのである。ただし、腰腹からの力と気を手先に十分通してやらなければならない。
これで相手の力は半減し、ぶつからずに倒れてくれるようになるはずである。

正面打ち一教や呼吸法で、この手先の回転角度の容量がわかれば、後は他の技で応用していけばいいだろう。